「ふざけんな、なんでお前が泣いてんだよ」…そう言いたいのは、視聴者のほうだったのではないだろうか。
12月6日放送のNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」第47回では、ヒロイン岩倉舞(福原遥)らが航空学校のプリソロチェック(中間審査)に臨み、同期生で水島学生(佐野弘樹)だけが不合格に。そこからの展開で視聴者が置いてきぼりにされたという。
序盤では舞、水島、柏木学生(目黒蓮)の組に対し、大河内教官(吉川晃司)から中間審査の結果が伝えられた。舞と柏木は無事に合格できたのに対し、不合格となった水島には3日後の再審査が申し渡されていた。
中間審査の回想シーンでは、管制塔からの「JA01TC make circle before base」(旋回して待機せよ)の指示を水島が復唱できず、「ラジャー」(了解)とだけ応える姿が。実は11月30日放送の第43回でも、同じようにラジャーと応えていたのである。
「その時点で学生たちの飛行時間は20時間程度であり、中間審査を受けられる50時間にはまだ半分も到達していませんでした。航空学校のフライト課程で学生が飛べるのは1日1時間だけ。つまり今回の中間審査では、そこから1カ月にわたるフライト訓練を重ねつつも、水島がまったく成長していないことが示されたのです」(飛行機に詳しいトラベルライター)
しかしその1カ月間、水島が中間審査合格に向かって努力する姿はまったく描かれてこなかった。彼がどれくらいフライト課程に真剣に取り組んでいたのかも、視聴者には分からずじまいだったのだ。ヒロインの舞と柏木に関しては、着陸時の操作や現在地の把握など、お互いの弱点をカバーしあおうとする様子がきっちり描かれていたものの、水島を含む同じチームの仲間たちについては訓練過程を描くことがなかったのである。
ところが今回、再審査にも不合格となり、退学することになった水島が寮の自室で荷物をまとめていると、同室の柏木が「お前はそんな半端な気持ちでやってなかった」と詰め寄ることに。水島に対して「なあ、素直に悔しいって言えよ! 俺は…俺は悔しい…」と涙ながらに訴えかけ、当の水島から「ふざけんな、なんでお前が泣いてんだよ!?」と反論されていたのである。
「このやり取りが、同期生の固い絆を描く感動シーンであることは明らか。どんなに努力しても叶わないことがあるとの現実を提示しつつ、不合格となった水島も含めて全員が仲間だという結束を示す場面だったはずです。しかし視聴者にしてみれば、水島の訓練課程がほとんど描かれておらず、柏木はつい先週まで誰に対しても冷淡な態度を取っていたのに、いきなりこんな感動シーンを強要されても受け入れられないのは当然でしょう」(テレビ誌ライター)
柏木は「ここで必死に頑張っているうちに、本気でパイロットになりたいと思った」と水島の想いを代弁していた。しかし作中で、水島が“必死に頑張っている”姿が描かれたことなどあっただろうか。本作での水島は、周りを笑わせては場を和ませようとするムードメーカーとしての役割に徹していたはずだ。
この強引すぎる展開に、視聴者からは<水島の悩みはスルーしていたのにいまさら?><これで泣けるわけがない>といった批判が噴出。舞と柏木のラブコメ的な恋バナに時間を費やすくらいなら、水島らのフライト課程をもっと丁寧に描いてほしかったとの声があがるのも無理はないだろう。
しかも今回、水島(佐野)の演技が素晴らしかったことが逆に、物語の不備を際立たせてしまっていた。悔しさを隠して明るく振る舞っていたのに、感情が堰を切って号泣した水島に感情移入したいものの、どうにも感動できないことに視聴者はいら立ちを隠せなかったようだ。
「五島編やなにわバードマン編では、登場人物が必死に頑張る姿に視聴者は涙を隠せなかったもの。それが今回は水島や舞など登場人物全員が号泣しているのに、視聴者はすっかり白けてしまうという逆転現象になっていました。その原因が、登場人物の心の機微を丁寧に描いていない脚本にあることは明らか。水島の不合格という一大イベントを、制作陣が自らぶち壊してしまったも同然ではないでしょうか」(前出・テレビ誌ライター)
繰り返しの指摘になるが、水島(佐野)が見せた泣きの演技には素晴らしいものがあった。しかし演者がいくら頑張ったところで、それを台無しにしてしまう脚本では、その演技も報われないということが如実に示された回だったのかもしれない。