好きな日本語は「するっちゃする」、朝ドラ『虎に翼』崔香淑役のハ・ヨンスに直撃インタビュー!

ハ・ヨンス

 あのヒャンちゃんが帰ってきた! 伊藤沙莉の演じるヒロイン・寅子が話題沸騰中のNHK連続テレビ小説『虎に翼』にて、6月12日の放送で視聴者を驚かせたのが、戦前に朝鮮半島から明律大学女子部に留学していた崔香淑の再登場だ。果たして香淑は今後、本作にてどんな役割を果たすのか、興味の尽きないところだろう。

 その香淑を演じるのは韓国でモデルや女優として活躍してきたハ・ヨンス。2022年に来日して芸能事務所のTWIN PLANETに所属し、日本で本格的に女優として活動していくことを発表していた彼女が、朝ドラという大舞台で大きな注目を浴びている。

 asageiMUSEでは今回、香淑役を好演するハ・ヨンスに直撃インタビュー。朝ドラの舞台裏や、日本で女優活動していく想いなどについて訊いた。

【ハ・ヨンス】
1990年10月10日、韓国・釜山生まれ。
ネットショッピングのモデルをしていた際の写真が注目を浴び、芸能界に進む。2013年、映画『恋愛の温度』の助演でデビューし、ドラマ『モンスター~私だけのラブスター』では新人ながらヒロインに抜擢。2015年にはBIGBANGのMV『Let’s Not Fall in love』に出演し、日本でも注目を浴びる。2018年、月9ドラマ『リッチマン、プアウーマン』の韓国版リメイク『リッチマン』にて主演。2022年5月に美術留学目的で来日し、同年11月には日本で女優活動を行うと表明、本格的に活動をスタートする。2023年8月、24年度前期のNHK連続テレビ小説『虎に翼』に朝鮮半島から来た留学生の崔香淑(さい・こうしゅく/チェ・ヒャンスク)役で出演することが発表。同作の序盤ではヒロインの寅子(伊藤沙莉)と同級生として切磋琢磨し、時代が戦後を迎えた6月12日の放送ではひょんなことから寅子との再会を果たした。

通訳なしで、すべての取材に日本語で対応したハ・ヨンス。

◆朝ドラ出演が決まってから韓国で裁判を見に行きました

――『虎に翼』の出演にあたってオーディションはありましたか。

ハ・ヨンス 自分でも驚きましたが、なかったです。多分、韓国での経歴や日本語の能力が認められたんだと思います。面接をして二日後くらいに担当の方から「決まりました」と連絡が来ました。

――日本の「朝ドラ」についてはご存じでしたか。

 好きな女優さんののんさんが以前、朝ドラに出演していたことを聞いて、「朝ドラ」というジャンルの存在を知りました。日本に来てまだ2年ぐらいなので実際に見たことはなかったんですが、今回お話をいただいてから初めて『ブギウギ』(23年度後期)を見ました。

――崔香淑を演じるにあたって、なにかしら法律について勉強したりしましたか。

 朝ドラ出演が決まってから韓国で裁判を見に行ったんです。刑事や民事などさまざまな裁判を見ましたが、内容に共感しすぎちゃって辛くなる時もありました。あと大学の講義を受ける機会もあって、何回か法律の授業を受けました。友人に女性弁護士がいるので、司法試験(作中では高等文官試験)の話も聞きました。彼女は感情が激しいタイプではないのに、裁判では時に泣きながら「依頼人と一心同体」という考えでいると言っていて、素晴らしいと思いました。

――弁護士をテーマにした韓国ドラマがヒットし、日本でも人気を得ています。

 朝ドラ出演が決まる前に観たことがあります。観て良かったとは思いますが、朝ドラとは時代設定が違いますし、自分の世界をちゃんと作らないといけないので、あまり参考にはしていないです。

――崔香淑とハさん自身で似ているところはありますか。

 “挑戦”しているところですかね。私も30代で、大きな覚悟を持って日本に来ました(※現在33歳)。香淑が生きていた当時は女性として活躍するのが難しい時期だったと思います。それでも勇気を持って自分の立場とか性別とかいろんな環境を乗り越えていく姿が、すごく自分と似ているなって。それと食いしん坊なところも似ています(笑)

――食いしん坊な香淑は、梅子(平岩紙)の作るおにぎりが大好物です。

 韓国ではコンビニのおにぎりしかないから、手作りって珍しいんですよ。撮影現場ではおにぎりを手作りしていただいて、それを食べていたんですが、たらこや鮭、いろいろな味があるなかで一番感動したのがごま塩。食べかけになっちゃうのが勿体なくて、家に持ち帰ったり、温かいうちに現場で食べきったり。なんであんなに美味しかったんだろう?

――今回の『虎に翼』では、どんなところを視聴者に観てほしいですか?

 この時代に差別などもあるなか、香淑が一人の人間として認められ、夢を叶えるところを注目していただきたいです。

大きな身振り手振りで表情豊かに話してくれた。

◆演じる年齢に合わせてダイエットをしています

――ヒロイン・寅子役の伊藤沙莉さんとは現場でどんなお話をされていますか。

 私の大好きな『クレヨンしんちゃん』の話で盛り上がっています! あと、沙莉ちゃんがマクドナルドのCMに出ているので「三角パイ食べたよ」って話しかけると、「美味しかった?」って返してくれました。ハッピーセットでクレヨンしんちゃんが発売されて、4回くらい食べたんですよ。それで同じおもちゃが3連続で出ちゃって、そういう話を沙莉ちゃんとしています。

――伊藤さんと演技についての話もしていますか。

 セリフに関して「さっきの私の日本語ってちょっと不自然だった?」って訊いたり、「今のアクセントは大丈夫だった?」って確認したりします。沙莉ちゃん以外の役者さんや監督さんにも訊ねています。現場に通訳さんがいないので「100%、私はちゃんと理解できているのかな?」といつもモヤモヤしていて、だから自分のセリフを何百回も振り返って、自分の心の中に受け入れます。日本語を覚えて口から出すという感じじゃなくて、心から自分の気持ちをちゃんと含めて言いたいから、何回も練習をしています。

――他の共演者の方とはいかがですか。

 みなさん本当にいい人で、泣いたこともあるくらいエピソードは何個もあります。桜井ユキさん(桜川涼子役)が突然、何の日でもないのに靴下をプレゼントしてくださったり、私が誕生日を迎えた時には平岩紙さん(大庭梅子役)と土居志央梨さん(山田よね役)と羽瀬川なぎちゃん(玉役)がサプライズでプレゼントをくれたり。共演者の中でも一番若いなぎちゃんとすごく仲良しになって、なぎちゃんが好きな「すみっコぐらし」の文房具をプレゼントしたり、なぎちゃんが韓国に遊びに来たら「私がナビゲートをするからね」と約束したりしています。

――朝ドラの撮影期間はすごく長期にわたります。

 韓国にも100話以上のドラマとか全然あるし、そういうのは慣れています。ただ昭和時代の設定のドラマはやったことがなかったし、20代から幅広い年代を演技しないといけないのが心配。だから演じる年齢に合わせてダイエットをしています。今は戦後の設定なので、戦前の学生のころより痩せています。

モデルとしても活躍するとあってスタイルはこの通り。身長は163センチだ。

◆日本語を上達させて、作品に出演するチャンスがあれば嬉しい

――韓国のドラマと日本のドラマの違いを教えてください。

 韓国では朝に始まって朝に終わるくらい、とてもハードなスケジュールなんです。その環境で長いあいだ仕事をしていたので、朝ドラの環境に「みんな天国から来たの?」と思ってしまいました(笑)。こんな早い時間に撮影が終わることがあるんだと驚きました。俳優の友人に聞いたところ、韓国では以前の環境とあまり変わっていないそうです。

――韓国のドラマでは視聴者の反応を見て、途中でストーリーを変えることがあると聞いています。

ハ はい、本当です。でも監督は一人しかいないですね。朝ドラには監督が3人いるのでそれに驚きました。でもよく考えると、監督は一番大変な仕事なので、良いシステムだなあと思いました。

――日本語はいつから勉強していますか?

 2年前から勉強しています。アニメーションを学ぶ高校に通っていた際、日本語の授業があったんですが、ずっと寝ていました(笑)。しかし日本で演技の仕事をしたいと決めてからは、独学で学んでいます。もし日本語が上手くならなかったら日本で仕事をするのはあきらめようと思っていました。それで3カ月くらい毎日日本語を勉強してみたら結構伸びたんですよ! ただ日本の美大で絵を学ぶか女優として労働ビザを取得するかで迷ったこともありますし、美大を選ばなかった後悔もあります。18歳まで釜山にいて、ずっとイラストレーターや画家に憧れがあったので。

――これから日本でどんなことに挑戦していきたいですか。

 日本語をどんどん上達させて、作品に出演するチャンスがあれば何より嬉しいです。最近、韓国では昔に比べてドラマや映画の数が減り、仲間の俳優や女優みんなが困っています。本当は主役がしたいけど「違う役でもいいから出演させてください」みたいな状況です。だから私は、日本で朝ドラに出演できたこと自体に感謝したいです。

――女優として目指していることを教えてください。

 まずはとにかくもっと日本語を上達させたいです。今はまだ留学生ぐらいの日本語だと思いますけど、これから5年ぐらい頑張ればさらに上手になって、年齢も重ねてその年齢でしか出せないオーラとかも持てれば、さらにいい演技ができるんじゃないかなって思います。みんな歳を取っちゃうし、永遠にきれいで永遠に輝くとかはないし、たとえばお母さん役のように誰かを支える役も必要です。私は自分自身の変化をちゃんと受け取って、真面目に演技をしたいと考えています。

『虎に翼』の台本を手にしてくれたハ・ヨンス。

◆声をかけてくださる方がいることに本当に救われています

――『虎に翼』では留学生として法律を学んでいますが、ハさんが新たに学びたいことはありますか。

 歌とダンスです。歌は習ったことがないので、しっかりとトレーニングをして曲を出したいなあと思っています。私は運動音痴なのでダンスも学びたいです。さらにアクションスクールでアクションを学び、演技の幅を広げると共に、自分のギャップも見せたいですね。

――好きな日本語は何ですか。

 「するっちゃする」「あるっちゃある」みたいに「〇〇っちゃ〇〇」が好きで、本当にもう口癖みたいにめっちゃ使います。口にすごく馴染んじゃって、ちょっとクセになりました。音的にかわいいです。

――日本でお仕事されるようになってからのエピソードがあれば。

 日本に来て1年経ってから、自分が花粉症なのを知ったんですよ。韓国では全然なかったのに、すごくニキビができたりくしゃみも出たり。日本は韓国より木々の種類も多いですよね。今まで出会ったことのなかった木々たちのせいでちょっと苦しいんですけど、これは管理するにも限界で、マスクしていても花粉は吸っちゃうから…。あと、撮影スタジオは乾燥しているので、保湿にはすごく気をつけています。

――スタイル維持の秘訣を教えてください。

 食事を調節していて、グルテンフリーをとくに意識していますね。でもパンやケーキも大好きなんです。この前もプリンが有名なカフェに、先ほど話した弁護士の友人と行きました(笑)

――最近注目しているファッションアイテムや美容アイテムはありますか。

 メイクさんが持っている美顔器です。いまは美顔器を持っていないんですが、メイクさんの美顔器を使わせていただいた時に、むくみが改善したんです! でもお値段がなんと8万円で、それくらい高価なものはやはり効果がありますね。

――韓国ではモデルとしても活動されていましたが、韓国と日本でファッションやメイクにどんな違いがあると感じていますか。

 ゴスロリとかは韓国には存在しませんし、日本はジャンルがちょっと広いという印象です。メイクについては、日本ではリップが薄めみたいな感じ? そしてラメをたくさん使いますよね。韓国ではもっとシンプルなメイクをする人が多いかな。私自身も私の友達たちもそんなに派手なメイクはしません。似ているのはマスカラとかアイライナーに執着するところ。

――日本ではK-POPアイドルのメイクも人気です。

 K-POPアイドルのメイクは舞台のお化粧だから、日常的なものとは違います。実際に見たら驚くぐらいにリップもチークもアイラインもバッチリ。男性アイドルもそうで、男性アイドルのメイクは私より2倍濃いです(笑)。韓国には「ショップ」っていうものがあって、そこで役者とか歌手のみなさんがヘアメイクをします。ショップでシャンプーやメイクも全部してから、車に乗って仕事に行くんです。日本には存在しない文化ですが、韓国では観光客でも体験できます。

――それでは最後に、日本のファンへのメッセージをお願いします。

 みなさん、ハ・ヨンスです。韓国で出演していたドラマや映画、MVをチェックしてくださったり、駅で声をかけてくださる方がいることに本当に救われています。それがあってこそ今の自分があると思います。だからこそ、もっと日本語の勉強を頑張り、皆さんと通訳なしのコミュニケーションを取れたらいいなと思います!

【取材協力:國近奈旺、須田真輝絵/撮影:Issey Nakanishi】