これまた突飛なアイデアを口にしたものだと、視聴者も呆れていたことだろう。
9月26日放送のNHK連続テレビ小説「ちむどんどん」第121回では、沖縄の実家に戻って1年弱のヒロイン青柳暢子(黒島結菜)が、自宅を改装して沖縄料理店の「やんばるちむどんどん」をオープンするというアイデアを披露。家族の同意を得て、実現に向けて動き出す姿が描かれた。
作中では暢子が手書きした完成予想図も登場。庭に屋根を付け、テラス席にするという構想だ。だがこのアイデア、実現に漕ぎつけるのは相当に困難だというのである。
暢子は父親の賢三(大森南朋)が一人で建てた民家を改造して料理店を始める予定で、厨房には冷蔵庫のほか、コールドテーブルやローレンジといった厨房機器も搬入する予定。ガスレンジやシンクは「周りを新調」とのことで、土間もタイル敷きに変更するつもりだ。だがそれだけでは飲食店としての営業許可を取るのは無理だというのである。
「飲食店を開業する場合は『食品衛生法施行条例』に従って店舗を作る必要があります。同条例によるとキッチンには食器を洗う専用のシンクが必要なほか、ガスレンジなどには専用の排煙設備が必要。また『施設の内壁、天井及び床は、常に清潔に保つこと』という定めもあり、床はタイルに張り替えるからいいものの、天井や床も築30年超の民家のままではとても、基準を満たすことはできません」(週刊誌記者)
もっともその辺の事情に関しては、本作では暢子の周りにいるすべての人々が暢子に協力するという謎の定めがあるので大丈夫ということだろうか。腕に覚えのある村人が集まっては天井や床を張り替えたり、レンジフードや換気扇を据え付けてくれるのかもしれない。
しかし、いくら周りの協力を得ることができても、暢子のアイデアのままではどうあっても、営業許可を取ることは不可能だというのだ。
「というのも食品衛生法施行条例には『窓及び出入口は、開放しないこと』という定めがあるからです。暢子の家は前面側に壁がなく、厨房も庭から直接出入りできる構造。しかも暢子の描いた完成予想図には《土や海、山、自然との地続きの雰囲気を残すため、壁はなし!》と明記されており、これでは条件を満たすことができません。このままでは飲食店として法律違反の構造となってしまうのです」(前出・週刊誌記者)
なお同条例には、やむを得ず窓や出入り口を開放する場合の項目も定められている。それによるとネズミや昆虫、ほこり(条例上は「そ族、昆虫等、じんあい」と表記)の侵入を防止する措置を講ずる必要がある。しかし比嘉家の作りを見る限り、そんな状況にないことは明らかだ。
それでも次回か次々回にはきっと、暢子が「やんばるちむどんどん」を開業していることだろう。その際には営業許可を得ていない無許可営業になるのか、それとも保健所の職員まで無条件に暢子の味方となるのか。どうやら本作では「暢子さま」の前に、法律すら無力となるのかもしれない。