そのうなずきに、父親の気持ちが詰まっていたのだろう。
4月18日放送のNHK連続テレビ小説「ちむどんどん」第6回では、比嘉家の父親・賢三(大森南朋)が心臓発作で亡くなる姿が描かれた。
農作業中に胸を押さえて倒れてしまい、医者から心臓発作と診断された賢三。そこに学校から慌てて帰ってきた4きょうだいが揃い、妻と子供たちに看取られながら賢三は旅立っていった。
臨終の間際に賢三は、家族一人一人に声をかけていた。長男の賢秀には「お母ちゃんとみんなを頼むよ」、長女の良子には「頑張って立派な先生になれな」、三女の歌子には「幸せになれよ」、そして妻の優子には「ありがとう」と感謝の言葉を口にしていた。
だがヒロインで次女の暢子(稲垣来泉)にはただ「うん…うん」とうなずいただけ。葬儀のあと、暢子はきょうだいたちに「にいにいやねえねえ、歌子には幸せになれって言ったのに、うちだけ何も言われなかった」との不満を口にしていたのである。
そんな暢子に姉の良子は「そのままでいいと思ったから。『暢子は暢子のままでいい』、そう思ったから何も言わんかったと思うよ」と説明。すると暢子はかつて賢三から言われた「暢子は暢子のままで上等 自分の信じた道を行け」との言葉を思い出し、「そうかあ」と納得していたのである。
「暢子が思い出したのは、第1回で賢三が掛けた言葉でした。学校で周りからオテンバなどと悪口を言われているとの不満を漏らす暢子に、賢三は『言いたい奴には言わしておけばいいさ』と前置きして、『暢子は暢子のままで上等 自分の信じた道を行け』と諭していたのです。この“上等”とは沖縄弁で、相手の行動や性格を褒める時に使う言葉。賢三は姉の良子が説明した通り、暢子には変わらずにいてほしいと願っていたのでしょう」(テレビ誌ライター)
そんな賢三が遺した言葉には、暢子の東京行きを後押しする意味があったとの見方もあるという。
前週の第5回で比嘉家は、東京から来た大学教授の青柳史彦(戸次重幸)に招待され、那覇のレストランで洋食をご馳走してもらうことに。その席で暢子は賢三に「お父ちゃん、うち東京に行ってみたい!」との願望を口にするも、賢三は「ええ?」と困惑するばかりだった。
続けて賢秀はズックを、良子は体操着を買ってほしいと懇願。すると賢三は、こちらには「買ってやるから」と安請け合いしていたのである。
「結果的に賢三は、東京に行きたいという暢子の願望に返事をしないままで終わっていました。しかし賢三は父親として、暢子には自分の好きなようにどこにでも行ってほしいと願っていたはず。その気持ちが臨終の間際に口にした『うん…うん』という短い言葉に凝縮されていたのでは。それがすなわち『暢子は暢子のままでいい』ということだったのでしょう」(前出・テレビ誌ライター)
4きょうだいのうち、暢子以外に沖縄を出る者がいるかどうかはまだ不明だが、少なくても暢子には自分の気持ちが赴くところに行ってほしい。賢三はそう願っていたのかもしれない。