含蓄のありそうなセリフに潜んでいた矛盾に、モヤモヤした視聴者も多かったようだ。
6月22日放送のNHK連続テレビ小説「ちむどんどん」第53回では、今週のタイトルにもなっている「ポークたまご」を巡っての論争が繰り広げられる場面があった。
勤務先のイタリア料理店「アッラ・フォンターナ」でシェフ代行に指名されるものの、ほかは男性の先輩ばかりという厨房で意気込みばかりが空回りしてしまったヒロインの比嘉暢子(黒島結菜)。オーナーの大城房子(原田美枝子)からは「このままだとシェフ代行、失格」と言われてしまい、休み明けが最後のチャンスだと言い渡されていた。
下宿先の沖縄料理店「あまゆ」に戻った暢子は、幼馴染の砂川智(前田公輝)や友人で東洋新聞社記者の青柳和彦(宮沢氷魚)、その恋人で同僚の大野愛(飯豊まりえ)らに愚痴をこぼすことに。そこに店側から余りものだという「ポークたまご」が提供されたのだった。
この場面で和彦は男女同権を声高に訴え、愛は和彦に賛同しつつも甲斐甲斐しくポークたまごを取り分けていた。そんな和彦の言動がハラむ矛盾に対して、視聴者のあいだからは批判の声が続出。「男の都合で女を『専業主婦』という型にハメるべきじゃない」と熱く語っておきながら、恋人の愛がポークたまごを取り分けているのは当然と言わんばかりの態度で、議論に熱中していたからだ。
一方で、そんな和彦の態度こそ制作側が描きたかった「現実」ではないかとの指摘も。青臭い理想論をぶち上げる和彦のような人物こそ、矛盾した態度を取りがちとの図式を描こうとしていたということか。
するとここでポークたまごの配分を巡って暢子と智が揉めることに。大皿にはポークとたまごがそれぞれ6切れずつ載っており、愛は自分と暢子にはポーク1切れとたまご2切れ、そして和彦と智にはポーク2切れとたまご1切れで配分していた。すると「うちのポークが少ない!」と暢子が言い出し、智が「男は女より体がでかい。たくさん食べて当たり前」と言い返したのである。
「これらのやり取りを通じて、4人それぞれの価値観が明確に示されました。男勝りに頑張りたい暢子。暢子を応援しているように見えて旧来の家族観に囚われている智。男女同権の理想論ばかりで現実が見えていない和彦。そして和彦に理解を示しながらも現実を受け入れている愛という四者四様の姿です。それを浮き彫りにさせるきっかけが『ポークたまご』だったのですが、実はそのポークたまごを巡って、別の矛盾点も露呈していました」(テレビ誌ライター)
それは、沖縄県人会会長の平良三郎(片岡鶴太郎)が暢子に語った言葉にあった。一人、店の前にたたずむ暢子に声を掛けた三郎は、大城オーナーは決して男性勝りではないと暢子を諭していた。
ここで三郎はポークたまごを例にあげ、「どっちが上か下かじゃねえだろ? ポークはポークらしいのが一番。たまごもそうだ」と説明。元の豚やヒナがオスかメスかなんて関係ないと語り、性別にこだわりすぎることの無意味さを説いていたのである。
だがそんな三郎の説得には、明らかな矛盾が含まれていたという。それは暢子ら4人がなぜ、ポークとたまごの配分で揉めたかを見れば明らかだというのだ。
「暢子たちのあいだでは『ポーク>たまご』という固定化された上下関係がコンセンサスになっていました。しかし男女同権をテーマにするのであれば、《私はたまごのほうが好き》という人もいるべきでしょう。それなのにポークが優位だと決め打ちしてしまっては、いくら三郎が『どっちが上か下かじゃねえだろ?』と指摘したところで、暢子にも視聴者にも響かないのは明らかです」(前出・テレビ誌ライター)
なお本作の制作陣は、主要スタッフが全員男性となっている。「男だけの発想」で男女同権を描こうとした結果、なにかと矛盾が生まれてしまったのかもしれない。