【舞いあがれ!】久留美の家を訪れたのは12時15分だった!さりげない描写で家庭環境まで描き出す演出の凄みとは

 画面の端々や効果音にさえ、細かく気が配られているようだ。

 10月17日放送のNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」第11回では、ヒロインの岩倉舞(浅田芭路)がクラスメートである望月久留美(大野さき)の自宅を訪れる場面があった。ここで示された望月家の描写に感心する視聴者が続出していたという。

 舞と久留美は校庭の小屋で飼われているうさぎの世話をする飼育係仲間。小3の1学期を長崎・五島で過ごした舞は、2学期が始まると久々にうさぎの「スミちゃん」に会いに行った。だがスミちゃんの姿はなく、久留美によると虹の橋を渡ってしまったのだという。

 その夏休みはひどく暑い日があり、久留美はスミちゃんを自宅に連れて帰ることに。家の中なら涼しいからという配慮だったが、その晩にスミちゃんは亡くなってしまっていた。そのせいで久留実は学校で「ウサギ殺し」との汚名を着せられてしまったのである。

「スミちゃんを可愛がっていた舞ですが、彼女は久留美を責めることなく、むしろ久留美が周りから仲間外れにされていることを心配していました。友達想いで心優しい性格に加え、うさぎは病気を人に対して隠すことがあり、突然死んでしまうこともあると本で読んでいたからです」(テレビ誌ライター)

 本で読んだ内容を久留美に教えようとした舞だが、翌日、久留美は学校を休んでいた。そこで舞は思い切って、久留美の自宅を訪ねることに。週末に学校から持ち帰る袋を代わりに届けることを口実に、久留美に会いに来たようだ。

 市営住宅らしき団地を訪れた舞。町工場地帯にある自宅が一軒家なのと比べると、同じ市内でもずいぶんと様子が違うと感じたことだろう。実際、舞の家と久留美の家では建物以外にも違いがあるようだ。というのも望月家はどうやら父子家庭らしいのである。

「舞が玄関の前まで来るとちょうど、買い物に出ようとする久留美がドアを開けました。開けっ放しのドアからは中の様子がうかがえ、手前の台所には家族暮らしにしては小さめの炊飯器が置かれており、窓際には洗濯物が雑に干されていたのです。また父親の佳晴(松尾諭)は久留美に『参観日のお知らせも隠してたやんか』と呼び掛けましたが、このセリフも母親がいないことを示唆していました」(前出・テレビ誌ライター)

家の様子をさりげなく映し出していた場面。表札にはNHKの放送受信章がしっかりと貼られていた。トップ画像ともに©NHK

 しかもこの場面では、舞が望月家を訪れたのが土曜日の午後12時15分だったことも示されていた。それは佳晴が観ていたテレビの音声だ。舞と久留美が会話する裏で、テレビからは「四角い仁鶴がまぁ〜るくおさめまっせぇ」というセリフが聞こえていた。

 それはこの4月まで放送されていた昼の情報番組「バラエティー生活笑百科」(NHK、土曜12:15~12:40)にて、相談室長こと司会者の笑福亭仁鶴が番組のオープニングで口にしていた決め文句。この言葉だけでカレンダーや時計を示さずとも、その曜日と時間が丸わかりだったのである。

 だが、いくら土曜日とはいえ12時15分に久留美の家を訪れたのは少々早すぎでは? と思った視聴者もいたことだろう。土曜日は午前授業だが、小学校の4時間目が終わるのは12時20分ごろだからだ。だがその種明かしもきっちり示されていたという。

「舞が自分の部屋で父親の浩太と会話している場面では、壁に貼ってある時間割が読み取れました。それによると土曜日は国語・理科・保健の3時間目までだったのです。11時25分ごろに授業が終わり、そこから帰りの会。飼育係の舞がうさぎの餌やりをすれば、ちょうど12時15分ごろに久留美の家に到着する塩梅でしょう。どうやら本作では小学生の学校生活を、時間を含めて完全再現しているようですね」(前出・テレビ誌ライター)

 何気ない場面にも意味があり、説明的なナレーションを最低限に抑えている「舞いあがれ!」。この巧みな演出の凄さを知れば知るほど、ますます作品の内容に没入できるというものでないだろうか。