【舞いあがれ!】舞が見た東大阪の眺めは五島の海と一緒だった!視聴者を惹きこむ撮影手法のこだわりとは

 その美しい光景には誰しもが目を奪われたことだろう。

 10月19日放送のNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」第13回では、ヒロインの岩倉舞(浅田芭路)が父親の浩太(高橋克典)と共に、生駒山上遊園地を訪れる場面が描かれた。そこで映し出された雄大な眺めに、五島列島編との共通点が見いだせたという。

 飛行機への憧れを持ち、模型飛行機作りに没頭しつつある舞。父親の浩太はかつて飛行機製造に関わる会社に勤めていたものの、会社を辞めて父親のねじ工場を継いでいた。子供のころに模型飛行機を趣味にしていた浩太は、娘が飛行機に興味を持ってくれたことがよほど嬉しいらしく、舞と一緒に奈良の生駒山上遊園地を訪れたのだった。

 同遊園地には日本最古の大型遊具である「飛行塔」があり、舞は大喜び。複葉機を模した乗り物が高く吊り上げられ、塔の周りを飛ぶように周回する場面では、満面の笑顔で大はしゃぎする舞の様子に多くの視聴者が顔をほころばせていたことだろう。

「いろんな乗り物を楽しみ、陽も暮れはじめたところで二人は大阪平野を見下ろせるスポットに行き、浩太は『あっちが東大阪や』と遠くを指さしました。すると舞は『キラキラしてるな』との感想を口にし、浩太は『そうか?』と不思議そうな様子でしたが、やがて『まだ諦めるわけにはいけへんな』と独り言を口にしていたのです」(テレビ誌ライター)

 取引先から取引打ち切りを言い渡され、工場の経営が厳しくなっていた浩太。今の彼には現在の東大阪がキラキラしているとは思い難かったのだろう。しかし娘の舞には同じ街がキラキラと輝いていた。視点を変えれば状況も変えられると思えたことで、浩太は翌日、あらためて販路開拓に足を運べたのではないだろうか。

舞と浩太が大阪平野を見下ろしていたシーン。逆光のなかキラキラした街の様子が見て取れた。トップ画像ともに©NHK

 工場閉鎖の苦境に差し迫っていた浩太が気持ちを切り替えることになった遊園地のシーン。ここで父娘が観た遠景の美しさには視聴者も目を奪われていたことだろう。その場面に実は、五島列島編でおなじみだったシーンと同じ手法が使われていたというのである。

「生駒山上遊園地から見下ろす大阪平野は西の方角で、夕方には逆光になります。この場面でカメラは二人を背中側から映していましたが、これは撮影条件としてはかなり厳しいはず。人物を明るくすれば背景が白飛びしますし、背景をしっかり見せたいなら人物が真っ暗になってしまうからです。そこを本作の制作陣は両方ともしっかり映るように配慮し、照明が不自然に見えないように工夫していました。これと同じような映像は、五島で舞が暮らしていた祖母の自宅でも使われていたのです」(テレビ誌ライター)

 舞は祖母・才津祥子(高畑淳子)の家で暮らしていた。祥子の家からは五島の美しい海を見渡すことができ、引っ越してきた当初の舞はその海を「わーっ」と眺めていたものだ。

 そんな祖母宅のシーンでは、家の中にいる舞や祥子を映しつつ、背景には海がしっかり見えている場面が何度もあった。ここでもまた、屋内にいる人物と遠景の海を両方ともキレイに映し出す撮影技術が駆使されていたのである。

「舞と祥子が庭を背景に座っているシーンでは、左右の窓から伸びる影が違う方向に延びていました。これは自然光ではなく、照明でできた影であることを示しています。その一方で背後に見える海はよく見ると波が動いており、書割ではなく実際の海を映しこんでいることが分かりました。つまりこの場面では五島の高台にある家屋にて照明を巧みに配しながら、屋内で演技する二人と遠景の海を一緒に映しこむという技法が駆使されていたのです」(前出・テレビ誌ライター)

祥子の家でも巧みな照明技術が駆使されていた。©NHK

 本作では、ばらもん凧をあげるシーンでドローンを駆使した空撮映像を使うなど、映像美にこだわった表現を随所に見ることができる。それが五島の祥子宅や遊園地の場面でも存分に発揮されていたようだ。

 しかもそんな巧みな撮影技術は、岩倉家の自宅内でも発揮されていたというのだから驚きだ。それは浩太が物置きで古い工作機械の覆いを外す場面だったという。

「この場面では真っ暗な物置きに入った浩太が部屋の電気をつけ、工作機械の覆いを外そうとすると、左側に映っている階段を舞が下りてくるところまでがワンカットに収められていました。薄暗い部屋にいる浩太と、明るく照らされた階段を下りてくる舞をひとつの画面に収めるのは、相当難しい調整が必要となります。階段を下りる舞を別撮りすればもっと簡単ですが、制作側はどうしても二人を同じ画面に収めたかったのでしょう。ともあれこの場面では、画の持つ説得力に感心させられましたね」(前出・テレビ誌ライター)

 巧みな脚本や精細な小道具が注目される本作。それに加えて照明技術においてもNHK大阪放送局の総力が結集されていることは確実なようだ。