やはり問題は脚本にあるのか。視聴者からの批判は絶えないようだ。
12月13日放送のNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」第52回では、物語の中ごろを境に、視聴者の評価が一変したという。
前半では強風により訓練地の帯広空港に着陸できなくなったヒロインの岩倉舞(福原遥)が、大河内教官(吉川晃司)の先導を受け、釧路空港に着陸する様子が描かれた。もとより着陸操作を苦手としている舞。しかも他の空港に降りるのは初めてとあって、息が浅くなるほどに緊張感は高まっていた。
教官からの「自信を持て」とのアドバイスを胸に、着陸に挑む舞。それまでの指導内容を思い出しながらの操縦で、見事に滑走路のど真ん中に着陸。機体が静止すると教官から「よくやった。これまでで一番の着陸だった」とお褒めの言葉をもらったのであった。
「ここで画面は放心する舞の表情になり、ここからが今日一番の見ものでした。緊張から解放された舞はやがて涙ぐみ、文字通り落涙。実に35秒間にもわたって無言で涙の演技を続けたうえで、絞り出すように『ありがとうございます』と無線で教官にお礼の言葉を伝えたのです。固定カメラで舞の表情を撮り続けたこの場面は、演出側の狙いがズバリとハマった名シーンだったと言えるでしょう」(テレビ誌ライター)
視聴者のなかには舞につられて誘い涙を流す人も。潤んだ瞳からぽろっと涙がこぼれる姿には<演技がスゴい!>との声もあがっていた。なにかとバタバタしている航空学校編において、久しぶりの感動シーンになっていたのは間違いないだろう。
だがそんな感動も、中盤で台無しになることに。帯広空港に戻ってきた舞に、同期の柏木学生(目黒蓮)が歩み寄り、ガシっとハグ。しかし舞は困惑した表情を見せており、もはやハラスメントまがいの場面になっていたのである。
制作側はもしや、Snow Manの目黒にハグを演じさせることで、女性視聴者を喜ばせようとしたのだろうか。そんな狙いがあったとしたら、目黒ファンの“めめ担”でさえときめかなかったハグは大失敗だと言えるはずだ。だがそれは決して、演出上のミスではないというのである。
「戻ってきた舞を見つけた柏木は、格納庫から舞のもとへと歩み寄りました。カメラは柏木の後をついていき、ハグするまで15秒にもわたってワンカットで繋いでいたのです。この演出は、最後のハグが視聴者に不評なことを脇に置いておけば、舞のことを心配していた柏木の心情を実に巧みに表現した映像だったと言えるでしょう」(前出・テレビ誌ライター)
片や固定カメラ、片やハンディカメラで移動しながらの撮影と、異なる手法を用いながら長回しシーンを見せてくれた演出には、さすがとの拍手を送りたいところだ。
その一方で柏木のハグが批判されているのはひとえに、そこに至るまでの恋バナの描写が稚拙だから。すなわち舞と柏木の恋バナを描こうとしている脚本側の問題ではないだろうか。
「脚本に『戻ってきた舞を柏木が抱きしめる』と書いてあったら、どんなに陳腐な描写であろうとも、演出側はそれを尊重しないわけにはいかないはず。その状況でなんとかして説得力ある絵を作ろうと、長回しによるワンカットという手法を選んだのかもしれません。その演出に福原と目黒は、見事に応えてくれました。なによりこのハグに関して目黒を批判するのがお門違いであることは明らかでしょう」(前出・テレビ誌ライター)
脚本を生かすも殺すも演出の差配一つなのであれば、ダメな脚本を少しでもまともな方向にもっていくのもまた、演出の腕の見せどころだろう。今回、二つの長回しシーンに、演出側の意地が示されていたのかもしれない。