人はだれでも年を取る。それがプラスに働くこともあるようだ。
昨年末の「第73回NHK紅白歌合戦」にて、工藤静香や篠原涼子の歌声に大きな称賛が寄せられたのは記憶に新しいところ。なかでも観る者を驚かせたのは二人の声量だった。
工藤が大ヒット曲の「嵐の素顔」を歌いだした際には、冒頭から「あーらしを♪ おーこして♪」とのサビで始まる構成であることから、あまりの声量に口パクを疑う視聴者もいたほど。
ところがメドレー2曲目の「黄砂に吹かれて」では、「忘れたくて 忘れた」という歌詞を直後に続く「なくしたくて なくした」と間違えてしまい(※そのため同じ歌詞を2回続けて歌うことに)、字幕の歌詞と違うことに気付いた視聴者からは<生声だったのか!>と驚きの声があがっていたのである。
「その7人後に登場した篠原涼子は、40~50代におなじみの大ヒット曲『恋しさと せつなさと 心強さと 2023』を歌唱。こちらもサビ始まりの曲であり、オリジナルと変わらないハイトーンで歌いだした時には《声出てるなー》と驚く視聴者が多かったようです。もっとも篠原の出番では、バックでピアノを弾いていた小室哲哉があまりにも年老いた姿を見せていたため、彼女の歌声があまり入ってこないとの声もありました」(音楽ライター)
52歳の工藤と49歳の篠原。そんなアラフィフ歌手たちの活躍に、中高年層の視聴者は喜んでいたようだ。その一方では二人の登場に「誰が求めているの?」と疑問の声もあがっていたが、その指摘は紅白歌合戦の本質から考えればいささか的外れだというのである。
近年の紅白では「演歌・歌謡系」アーティストの減少が顕著で、2000年には31組もいたものが、今回は8組へと激減。その顔ぶれは演歌系が天童よしみ、水森かおり、山内惠介、坂本冬美、三山ひろし、石川さゆりの6人で、歌謡系が氷川きよしと純烈だった。
ここで注目したいのは、その8組の年齢だ。上から天童よしみの68歳、石川さゆりの64歳、坂本冬美の55歳、純烈・小田井涼平の51歳と続き、50代以上はこの4人だけ。意外にも全11人のなか、7人は40代以下だったのである。
「かつては中高年層の視聴者を対象に、その年代に人気が高い演歌・歌謡系の歌手が多く出場していましたが、いまや元アイドルの工藤でさえ52歳。紅白にとって重要な視聴者層であるF3層(50歳以上の女性)が若いころに聴いていた楽曲が、まさに工藤の『嵐の素顔』になっているわけです。それゆえ工藤や篠原はいまや紅白においてどストライクの人選であり、彼女たちの全盛期をリアルタイムで聴いていたF3層の視聴者が《スゴい!》《カッコいい!》と大喜びしていたのも当然ではないでしょうか」(前出・音楽ライター)
今回の紅白で初パフォーマンスを披露した「THE LAST ROCKSTARS」は、ギターのMIYAVI(41歳)以外は全員が50代。年齢的には彼らも実は紅白歌合戦にぴったりの存在だったと言えよう。
昨年9月にはツイッターにて、中学生が音楽発表会でBUMP OF CHICKENの「天体観測」を紹介する際に「この曲は僕たちが生まれる前に作られました」と説明したことが話題になったもの。そのバンプはメンバー全員が1979年生まれで、6年後の2029年に開催されるであろう「第80回紅白歌合戦」では50歳を迎えている計算だ。
そのころには演歌・歌謡枠はほぼゼロになっており、平成初期に活躍したアーティストが中高年層向けの人選として出演するようになっているのかもしれない。