「忍びの家」あやめ役でブレイク!仲万美が明かすオーディション&撮影現場秘話

仲万美

 Netflixシリーズ「忍びの家 House of Ninjas」の勢いが止まらない。2月15日に世界独占配信がスタートすると、翌週には週間グローバルTOP10(非英語シリーズ)にて第1位に君臨。3カ月が経過した現在でもSNSでは「忍びの家、面白い!」といった視聴者が続出しており、日本発のコンテンツとしては異例なほどのヒットを飛ばしている。

「忍びの家」は主演の賀来賢人が自ら共同エグゼクティブ・プロデューサーを務め、2020年に企画書をNetflixに持ち込んで、4年越しで実現した作品だ。賀来が演じるのは忍び一家・俵家の次男・晴(はる)で、俵家には父親役の江口洋介を筆頭に高良健吾や木村多江、宮本信子といった錚々たる顔ぶれが並んでいる。

 敵役の19代目風魔小太郎には山田孝之を起用したほか、田口トモロヲやピエール瀧、吉岡里穂や柄本時生といった実力派が脇を固めている。この豪華出演者を見れば、賀来とNetflixがいかに本作に力を入れたのかが分かるというものだろう。

 そのなかで異彩を放っているのが、女忍者の“あやめ”を演じる仲万美だ。風魔小太郎の側近にして“眉なし”のビジュアルが強烈な印象を残しており、出番も多いことから「あやめ役の女優は誰!?」と視聴者からも驚きの声が多数あがっている。

 その仲、かつてはダンスユニットを組んで活動し、2015年にはマドンナのバックダンサーとしてワールドツアーに帯同した経験の持ち主。その後、女優業にも進出し、2021年の映画「偽りのないhappy end」では主役を務めるなど、存在感を示している。

 とはいえ「忍びの家」を彩る豪華キャストに比べれば、女優としてまだまだ駆け出しであることは否めない。そんな彼女がなぜ「忍びの家」という大作に起用されたのか、そしてなぜ視聴者に大きなインパクトを与えることができたのか。同作に夢中になった人たちは、仲万美という女優のことをもっと知りたくなったのではないだろうか。

 asageiMUSEでは今回、仲に直撃インタビューを実施。出演に至った経緯や撮影でのエピソード、配信開始後の反響などについて訊いた。

【プロフィール】
仲万美(なか・ばんび)
1992年6月15日、熊本県生まれ。5歳でダンスを始め、2013年にプロデビュー。2014年末の紅白歌合戦に椎名林檎のバックダンサーとして出演し、一躍知名度を高める。2015年にマドンナのバックダンサーに抜擢され、1年半にわたってワールドツアーに帯同。2016年にはリオ五輪の閉会式で日本のプレゼンテーション「SEE YOU IN TOKYO」に参加した。2019年に「チワワちゃん」で銀幕デビュー。2021年の映画「ドリームズ・オン・ファイア」では初主演を務めた。2024年2月公開のNetflixシリーズ「忍びの家 House of Ninjas」では女忍者の桜井あやめ役でバトルシーンも披露。今後も女優業を邁進していく。

個性的なファッションも魅力の一つだ

◆取り繕ってもしょうがないと思いました

――大きなインパクトを残した「忍びの家」のあやめ役ですが、どういう経緯で出演が決まったんでしょうか。

仲万美 オーディションでした。Netflixの「忍びの家」という作品で、ざっくりした設定やあらすじだけを渡されていて、どんな役なのかも知らされてなかったです。

――オーディションの様子を教えてください。

 お芝居とアクションの審査があるということで、まずは20~30人くらいが集められました。それで全員なのかは分かりませんが、最初にお芝居を審査して、次はアクション審査がありました。アクション審査では一人ずつアクション経験を訊かれて、ほかの子たちはキックボクシングが趣味だったり、何かの映画にアクション参加しましたとか、どこそこのアクションチームに所属していたとか、経験者ばかりだったんです。

――仲さんはアクションのご経験は。

 ないです。そこは取り繕ってもしょうがないと思ったので、「ダンスしかしてなかったです」と正直に答えました。その場にはアクション指導の方がいらっしゃって、軽く走って最後に飛び蹴りするといったアクションをやったり、刀を持ってみたり。それで「今日はありがとうございました」と解散して、しばらくして合格の連絡があった時には叫びましたね。愛犬がびっくりしていたのを覚えています(笑)

――アクション未経験の仲さんが合格した理由は何だと思いますか。

 自分でも不思議しかなかったんですけど、多分、誰よりもそのオーディションを楽しんでいたと思います。アクションはずっとやりたいと思っていて、でも入り口が分からなかったんですが、いざアクションのオーディションを受けたらすっごい楽しくて! ほかのみんなは緊張していたけど、私はアクション指導のお兄さんに話しかけたりキャッキャしてて、印象が良かったのかもしれません。

――それこそ賀来賢人さんもそういう女優さんを求めていたのかもしれませんね。

 オーディションは本当に素で楽しかったです。でも合格の連絡が来てほかの出演者を知った時に「ちょっと待て」となりました。これは楽しいっていう気持ちだけじゃできないぞって。

見る者によって印象が変わる表情も魅力にあふれている

◆人を寄せ付けない雰囲気というのは美しいもの

――あやめ役が決まった時の周りの反応はいかがでしたか。

 作品の詳細は言えないのでファンの方には「来年楽しみにしててね」とだけ伝えていて、時々オフショットの写真を見せて「この顔を覚えておいてね」ってやってました。それでふたを開けたらNetflixの「忍びの家」でしたから、みんな大騒ぎでしたね。家族も大喜びで、実家に帰るとずっと「忍びの家」が流れています(笑)。

 昔からのダンス仲間は「いよいよ万美そこまで行ったか」みたいな。でも驚くというよりも、「万美はそこまで行くべきだ、もう世界に行け!」という感じで、こうなることは分かっていたよって喜んでくれました。

――仲さん自身とあやめで重なる部分はありますか。

 私、あんなに冷徹じゃないと思います。でもなんだろう、自分限定の話ではないと思うんですが、闇を抱えがちというか。過去のシーンではあやめが普通に女の子らしくしていて、そこから6年のあいだに闇を抱えたんでしょうね。私も闇を抱えている期間がありましたし、闇を抱えていると人相が悪くなるところも共通するのかなと思いました。

――仲さんも闇を抱えていたんですか。

 それこそマドンナのワールドツアーはすごく辛かったので、あの時はずっと人相悪かったですね。ただあやめは闇を抱えている姿が美しいというか、人を寄せ付けない雰囲気というのは美しいものなのかと思う部分もあります。

――あやめに関して、驚いたことはありましたか。

 やはり過去のシーン(風魔の村での6年前のシーン)ですね。あそこは台本を読んで「そんな過去があったんだ!」って自分でもびっくりしました。あやめって冷徹で冷酷な殺人兵器みたいな存在かと思っていたら、もう女の子らしいというか。6年前という設定ではあるけど、ギャップはすごかったです。

――成長してからのあやめに関してはどうですか。

 風魔小太郎が19代目から20代目に代わるじゃないですか。その時、私のほうも顔つきが変わるんですよ。自分では分かってなくて、自然に出ちゃったようですが、20代目といる時はちょっと人間っぽくなっています。自分では意識していなかったのですが、ファンの子から「もともと殺りく兵器だったのが、人間でしたよ」って言われて、驚きました。

――その代替わりも含めて、撮影の順番はシーンの順番どおりでしたか。

 全然バラバラでした。だから19代目のあとで20代目というわけでもなく、シーンに応じて自然と顔が変わっていたみたいです。ただ、山田孝之くん(19代目風魔小太郎役)と一緒のシーンだと緊張してしまうので、それが出ちゃったのかもしれません。

悪戯っぽく微笑む姿にはあやめらしらも感じられる

◆「これが命の重さだよ」と言われて心に響きました

――仲さん自身、個性的な服装やメイクをしていますが、どんなこだわりポイントがありますか。

 実はありそうでないんですよ。モデルのお仕事をしているとヘアメイクさんに「ピンクはあれですよね」「ストレートのほうがいいですか?」とか言われるんですけど、もう全然なんでもやってくださいというマインドです。見た目が強いのでいじっちゃいけないみたいに思われがちなんですが、こだわりは本当になくて。ただ自分のことは自分が一番知っているから、何が似合うのかやどんなメイクにするのかが自然に決まってくるだけ。

 メイク動画を見て試してみることもありますし、姫カットにしたきっかけも高1までは黒髪ロングのぱっつんで、「ここ切ったらどうなるんだろう?」と思ってエイッ!って切ったからでした。

――その強いビジュアルに関して、外国人から見ると仲さんはエキゾチックだけど、日本人から見るとハーフっぽいですよね。

 それ、よく言われます! 日本にいたら日本人っぽくないって言われて、海外に行ったらアジアンビューティーだって言われて、言っていることが逆だなって思う。どっちにでもなれる顔という意味では両親に感謝です。

――撮影自体はいつごろだったんでしょうか。

 2年前、2022年から年をまたいで半年間です。

――全8話とは言え、半年間は長いですね。

 私、演技を始めてからそんなに年月が経っていないので「ドラマってこんなに長いんだ」って賀来くんに言ったら「ないない、半年はない」って言われました(笑)。それまで映画と舞台、ミュージカルしかやってなくて、ドラマは今回が初めて。でも終わってみたらあっという間だったかな。気づいたら終わってました。

――半年間の撮影中、ほかのお仕事は。

 あまり入れなかったです。基本、家にずっといて、木刀を振り回していました(笑)。地方での撮影もあって、その時はホテルに泊まり、本当に朝から晩まで撮影でしたね。

――賀来さんが他のインタビューで、この作品はドラマというよりも8本の映画を撮っているみたいだとおっしゃっていました。

 ホントそうだと思います。もうクオリティが高すぎて、ドラマというより映画ですよね。やはりNetflixのドラマはレベルが高いと思いました。

――木刀を振っていたということですが、それまで刀を持った経験は。

 ないです。時代劇の舞台に出たこともありますが、女性は戦わないので。小道具担当の方と「持ってみますか?」「え、いいの?」みたいなやり取りで持たせてもらったことがある程度ですね。

――「忍びの家」では刀が重要なアイテムです。

 アクションシーンで使う刀は軽いんですけど、刀がアップで映るシーンでは本物を使っています。やはり輝きとかが違うらしいです。作中で私が晴(賀来賢人)に刀を差しだすシーンがあるんですがそれがめちゃめちゃ重くて、重要なシーンなのに腕がプルプルしちゃって、「万美、止まって」って指導されたり(笑)。「刀ってこんなに重いんですね」という話をしたら、アクション指導の方から「これが命の重さだよ」と言われて、すごく心に響きました。

すらりとしたスタイルも日本人離れしている

◆英語を話せることをずっと黙っていたんです

――仲さんの来歴でマドンナのバックダンサー時代はわりとネガティブに語られがちですが、本作ではデイヴ・ボイル監督がアメリカ人ですし、経験が役立つ面もあったのでは。

 実は、英語を話せることをずっと黙っていたんです。デイヴは日本語が流ちょうですし、撮影現場ではずっと日本語でしゃべってました。でもふとした挨拶の時に普通に英語で返しちゃって、「ちょっと待って、英語話せるの?」みたいな。ヤバ、バレたかもって思いましたね。

 そこからはデイヴも細かい指示は英語のほうが伝えやすいみたいで、あやめのシーンはわりと英語で指示してくれました。こっちとしてはここは日本なんだから日本語でしゃべってくれよと思いましたが(笑)、デイヴが気持ちよくやれるならいいかなと思って。マドンナのツアーにはネガティブな思い出しかないですけど、今思うと、やっておいてよかったという部分はたくさんありますね。

――英語を話せることがバレたので、今後はアメリカで制作されるNetflix作品に出演する可能性もありそうです。

 関係者だけで試写会を開いたとき、デイヴから「SNSを全部英語に変えなさい」って言われました。Netflixは世界が相手だから、海外から反響が来るから英語にしなさいって。そこは分かりましたって答えて、いまはXは日本語で、インスタグラムは英語でと使い分けています。英語ばかりだと日本のファンの子たちが困るから、ちょっとイヤだなって思いながらインスタはやっています。

――実際に海外からオファーが来たらどうしますか。

 単発ならいいんですけど、住むってなるとトラウマが蘇っちゃいそうなのでちょっと怖いです。マドンナの時はアメリカがベースでしたが、マドンナって家がニューヨークやロサンゼルス、パリやロンドンなどいろんなところにあって、それに合わせてついていかなきゃならなくて、ホテルを転々とするのが苦痛でした。

――一カ所に腰を落ち着かせられないのは大変です。

 ただ一年半も海外を飛び回って、ストレスの限界まで体験したので、相当強くなりました。だから待ち時間なんて全然へっちゃら。マドンナは平気で10時間とか待たせるので、「忍びの家」の撮影で5時間待ちとかあっても全然平気でしたね。現場でイライラすることもないし、そこは鍛えられました。

視聴者にインパクトを残した「眉なし」は元からだ

◆本当は「多江ちゃん」って呼んでいます

――マドンナというビッグネームに鍛えられた経験があれば、撮影現場で大物俳優と一緒になっても物怖じしなかったのでは。

 実際の撮影に入る前に、殺陣の稽古でみなさんとご一緒できたのがよかったです。私は凪役の蒔田彩珠と一緒になることが多くて、その前後に賀来くんと高良健吾くんがいたり、同じ時間に別の場所で木村多江さんがやってらっしゃったり。みなさん和気あいあいとやってましたね。ただ山田(孝之)くんだけは緊張してガチガチになっちゃいましたが。

――昔からファンだったんですか。

 もう大ファンで。それにすぐに役に入り込んでいて、ボスだから声が掛けられなくて。怖くはないですけど、緊張感はすごくありました。

――山田さんの演技を見ていると、本当に宗教を始められるのではと思ってしまいます。

 本当に一回ヤバかったです。辻岡(山田が演じる元天会の教祖)が講演会をしている横に立っている場面では、辻岡が「笑ってください」っていうと、本当に笑い出しそうになっちゃう。「泣きましょう」というセリフではこれは危ないぞって思ったくらいで(笑)、それくらい彼からは影響力が感じられました。

――お話を聞いていると、共演者のみなさんを「山田くん」とか君付けで呼んでいるんですね。

 本来ならさん付けのほうがいいと思うんですけど、賀来くんと高良くんは向こうも「万美!」みたいに呼んでくださるので、「これはさん付けではないな」って思って。年齢もそんなに離れてないし、向こうがフランクに接してくるならこちらもフランクにしないと逆に失礼かなって思いましたね。もちろん君付け以外は敬語で話してますよ。

――木村多江さんも「多江さん」と下の名前で呼んでますね。

 本当は「多江ちゃん」って呼んでいます。最初、万美が本名なのかを訊かれて「本名は〇〇です」って答えたら、「〇〇ちゃん、多江ちゃん」って一人で言い出して。そこからご本人が「多江ちゃんって呼んで」って! 大御所の方ですけどすごく気さくで、ドラマ「大奥」(フジテレビ系)も観ていたしファンだったんですけど、さらに大好きになりました。

――ちなみに江口洋介さんは?

 さすがに大御所すぎて「江口さん」です。でも厳しくて怖い方かなと思っていたら、江口さんのほうから「万美ちゃんって何者なの?」って話しかけてきてくださって、マドンナの話をしたらすごく食いついてきて「すげえ!」って言ってくださいました。

視線の先にはどんな未来が見えているのか

◆まさかこんなことになるとは想像もしていなかった

――「忍びの家」を観た視聴者からは、シーズン2に期待する声が数多くあがっています。

 正直、心臓が持たないので「ちょっと勘弁してほしい」と思います。ただ現場では、もしシーズン2があったらこういうことがあるよという会話はありました。配信開始後にはそういう話も聞いていませんが、期待してもらってもいいかもしれませんね。

――そうなると、あやめが生き残っていてよかったです。

 本当に死なないでよかったです。もしシーズン2があったとして、このまま死なないでいたいなって思っています。

――一気に知名度が上がりましたが、出てみたいテレビ番組とかありますか。

 以前、「激レアさんを連れてきた。」(テレビ朝日系)に出演しましたが(2021年7月19日放送回)、緊張しいのアガリ症なので心臓が持たなかったです。テレビはちょっと苦手かもしれない。出てみたい番組はないですけど、オファーをいただけるんなら全力でやります。でもクイズ番組だけは絶対に出たくない。算数とか理科だとチンプンカンプンなので、だめですね。

――今後の目標があれば教えてください。

 目標を訊かれたときにいつも言っていることなんですが、死ぬときに「自分の人生、最高だった」と誇りたいんです。そんな自信になることをやりたい。いまはお芝居の仕事をやっていますけど、女優一本というわけでもないですし、自分の好きなことはとことんやりたいですね。ずっとダンスをやっていて、これからもダンスをやるんだろうなって思っていたら、まさかこんなことになるとは想像もしていなかったので、考えても無駄だなと。

――若い人へのメッセージがあればお願いします。

 大人って本当に楽しいんですよ。自分の意思で、自分の責任で判断することが楽しくて。もちろん間違えることもあるんですけど、その間違えさえも楽しいというか。だからなんでもやってみたらいいと思います。自分に制限をかけるのは簡単なことで、私も若いころはダンスしかないと思っていたけど、ほかにいろいろあるのが見えてなかったんですね。それってすごくもったいないと思うんです。きっと何をやっても後悔はするので、それなら何でもやってみたほうがいいんじゃないでしょうか。

(取材:渡辺梨子/撮影:吉田耕一郎)