もはや本作は、設定ミス込みで楽しむのが吉のようだ。
5月16日放送のNHK連続テレビ小説「ちむどんどん」第26回では、いよいよ東京編がスタート。ヒロインの比嘉暢子(黒島結菜)が高校を卒業し、念願の料理人になるという夢を叶えるべく、上京を果たした場面から始まった。
東京には一足早く、親友の前田早苗(高田夏帆)が大学進学で上京。二人は東洋一の繁華街と呼ばれた銀座の歩行者天国を訪れ、道行く人の多さに暢子は「アキサミヨー! 東京には何人、人がいるわけ?」とビックリだ。銀座では山や海、畑が見えないとして「こんなところに住めない。やんばる帰る!」と踵を返したのであった。
早苗に落ち着くように諭されるも、銀座の中心で「やんばる帰る―!」と叫んだ暢子。その姿は「世界の中心で愛を叫ぶ」さながらだったが、冒頭のこのシーンを巡って一部の視聴者からは、暢子ばりに「ありえん!」との声が漏れ伝わっていたという。
銀座や新宿など東京都内の4カ所で歩行者天国が始まったのは昭和45年(1970年)のこと。そのため作中の銀座に“ホコ天”があること自体は時代考証的に合っているのだが、問題はその日が暢子にとって東京に来た初日だったことにあるという。
「ここで注目すべきは《曜日》です。暢子は沖縄が日本に返還された昭和47年(1972年)5月15日(月)の朝に、沖縄北部の山原村からバスで出発しました。よもや飛行機に乗ったとは思えず、運賃が5分の1ほどだったフェリーで上京したのは確実。沖縄から東京までの船便は2泊3日の長旅で、早苗と落ち合ったのは5月18日(木)か19日(金)のことでしょう。ところが銀座の歩行者天国は土日祝にのみ開催されるため、平日の銀座で歩行者天国が開催されているのは現実と矛盾しているのです」(テレビ誌ライター)
どうやら本作の制作陣は「銀座の象徴=歩行者天国」という記号として、ホコ天の場面を再現したのだろうか。もしくは午前中の銀座(※沖縄からのフェリーが東京に着くのは朝)に、暢子が驚くほどの人が歩いている場面を描くには、歩行者天国にしてしまうのが最も都合がよかったのかもしれない。
そんな第26回ではもう一カ所、どうにも不自然な描写があったという。視聴者のあいだでは暢子と早苗が訪れたイタリア料理店「アッラ・フォンターナ」で4000円のセットを提供していることに「昭和47年にしては高すぎるのでは?」との指摘もあった。ただ早苗が「ランチだからもっと安いコースもあるよ」と語っていたことから、これはディナーコースのメニューだった可能性もある。
終盤では、安里ボクシングジムのトレーナーから、兄の賢秀が横浜・鶴見によく飲みに行っていたとの情報を聞いた暢子。現地に赴くも、意外に広い鶴見では当てが見つからず、早苗に泊めてもらうように電話を掛けた。ここで間違い電話だと切られてしまったのは、東京(03)と横浜(045)では市外局番が違うことを知らなかったからだろう。
これにしても、高校卒業までひなびた山原村で育った暢子が、市外局番を意識したことがなかったのはとくに不自然な話ではない。だがここで、なんとも納得できない状況が描かれていたという。
「東京が初めての暢子は、そもそも電車に乗った経験がありません。銀座(有楽町)から鶴見までは国鉄の京浜東北線一本で移動できるものの、彼女は料金表の見方も切符の買い方も知らないはず。それこそ改札で切符にハサミを入れることや、出札で切符を回収することも知らないはずです。そんな暢子が乗るべき電車や方向を間違えることなく鶴見にたどり着けたことがどうにも謎なのです」(テレビ誌ライター)
もっとも、そういったディテールにあえてこだわってこなかったのが「ちむどんどん」のスタイルと言えるかもしれない。なにより暢子は前向きな性格と明るい笑顔で、会う者を幸せにするタイプの女性だ。もしかしたら周りの人に遠慮なく聞きまくって、無事に鶴見にたどり着いていたのではないだろうか。