【舞いあがれ!】舞を島に置いて帰るシーンに「母親めぐみが可哀想」の声がほとんど出ないリアル!

 別れのシーンで舞が流した涙に、誰しもが心を鷲掴みにされていたことだろう。

 10月7日放送のNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」第5回では、ヒロインの岩倉舞(浅田芭路)を島に残し、母親のめぐみ(永作博美)が東大阪に帰っていくシーンがハイライトとなった。ここで舞が見せた涙に多くの視聴者がもらい涙を流すなか、めぐみに対して<可哀想>といった声がほとんどあがっていなかったという。

 第1週では身体が弱くて熱を出しがちな舞、そして子育てと家業のねじ工場との両立でいっぱいいっぱいとなっていためぐみの二人を軸に物語が展開。夫・浩太(高橋克典)の勧めもあり、めぐみは舞を連れて実家がある長崎・五島に戻っていた。

 祖母・才津祥子(高畑淳子)の家に身を寄せ、舞は島の小学校に通うことに。翌週に行われる校外学習の「磯の生き物観察」は、舞の体調を心配しためぐみが一度は休むように説得したものの、祥子が「舞はどがんしたかとね?」と訊ね、舞が「行きたい」と答えたことで参加することになった。

 そして校外学習当日を迎えた今回、祥子のジャムづくりを手伝いながらも舞のことが心配でならないめぐみ。祥子が「一人でどがんもこがんもできんけんが、来たっとじゃなかとか?」と指摘するも、めぐみは「うちの子やけん、うちが何とかする」と反発するのだった。

「この場面、祥子は『強がったってよかことはなか』と苦言を呈しつつ、舞について『島のみんなが見てくれとる』と語っていました。その言葉を田舎礼賛と捉えるのは早計というもの。祥子は娘のめぐみが何でも自分で抱え込んでしまうタイプであることを知っており、舞の子育てでめぐみ自身も激しく消耗していることを察したからこそ、めぐみに対して《一人での子育てではどうにもならない》と指摘していたのでしょう」(子育て中の女性誌ライター)

 めぐみはかつて、駆け落ち同然に島を飛び出したことから、祥子とは長年にわたって音信不通になっていた。その祥子に頼らざるを得ない自分を責めている部分もあるのだろう。そういっためぐみの苦しさは、子育ての苦労を知る親世代なら共感できるところも多いはずだ。

 その一方でめぐみの子育て法に疑問を呈する祥子の気持ちも分かるというもの。祥子は決してめぐみを否定しているのではなく、自分自身もめぐみを育てた経験から、「もっと人を頼って楽になりなさい」と伝えたかったのではないだろうか。

 第1週のタイトルは「お母ちゃんとわたし」。めぐみと舞の関係性を表すタイトルに思えるが、五島の実家にて繰り広げられる祥子とめぐみの確執を見れば、祖母と母親という一世代上の母娘関係も表すダブルミーニングだということに気づかされるのではないだろうか。

 校外学習では磯遊びを楽しんでいた舞。だが磯で転んでしまい、ひざをすりむいてしまう。祥子が運転する車でたまたま近くを通りかかっためぐみは、怪我をした舞を見て大慌て。帰宅してからは「来たばっかりなんやし、もっと慎重に考えなあかんやったねえ。ごめんな、舞」と、校外学習行きを認めたことを謝っていた。

怪我はしたものの、磯遊びをめいっぱい楽しんでいた舞。早くも五島に馴染みつつあるようだ。トップ画像ともに©NHK

 その様子を見て「めぐみ、帰ってくれんね」と、東大阪に帰るように突き放した祥子。めぐみは「私だけ帰れってこと?」と当惑するものの、祥子は「舞はここに来てからずーっとめぐみの顔色ばうかがっとる」と指摘し、「しばらく舞から離れたほうがよか」とアドバイスしたのだった。

「ここで見逃せないのは、祥子のアドバイスを舞が拒否しなかったことです。普通なら母親だけ帰れと言われたら、小3の娘は『お母ちゃんと離れるなんてイヤだ!』と泣き叫びそうなもの。しかし舞は子供心にも、祖母(祥子)の指摘が正しいと実感していたのでしょう。それに加えて舞が、前週に初めて会ったばかりの祖母を、自分の肉親として信頼している姿も表していたのではないでしょうか」(前出・子育て中の女性誌ライター)

 祥子の態度は一見、めぐみに対して厳しいように思える。東大阪ではワンオペさながらに子育てと家事、そしてねじ工場まで手伝い、病弱なめぐみを必死になって育ててきた。そんな苦労を重ねてきためぐみに「帰れ」と言い放つなど、傍目からは<めぐみが可哀想すぎる!>との声もあがりそうなものだ。

 終盤では舞を島に置いて帰ることを決心し、フェリーに乗り込んだめぐみ。彼女が船内に姿を消してからやっと、舞は別れの涙を流していた。母親を見送りながら「私と一緒にいてたらお母ちゃんしんどそうやから」との想いを吐き出した舞。「お母ちゃん私にここに残ってほしいって思ってる。そやから帰られへん」という言葉には、小3なりの決意が表れていた。

 そんな舞を否定することなく「ちゃんと自分の気持ち言えたばい」と認めてあげた祥子。その言葉は舞のみならず、めぐみのことも受け止めていたからこそ、出てきたものではないだろうか。

五島名物のばらもん凧を見あげる祥子と舞。その視線の先には光り輝く未来が広がっているに違いない。©NHK

「祥子は決してめぐみを一方的に責めていたのではありません。舞のことを想うあまり、舞だけではなく自分の心までも縛り付けていためぐみの辛さに気づいたからこそ、この機会にめぐみをその辛さから解放してあげようと決めたのでしょう。一人暮らしに慣れた老婆にとって、小学生の孫を育てるのは大変なこと。その苦労を自分が背負ってまで、娘のめぐみを楽にしてあげたかったのではないでしょうか」(前出・子育て中の女性誌ライター)

 そんな祥子の想いが伝わってきたからこそ、視聴者からも<母親のめぐみが可哀想>といった声がほとんどあがらなかったのだろう。めぐみと舞、そして祥子とめぐみ。二組の「お母ちゃんとわたし」の想いが交錯した港のシーンは、別れの場面でありながらもハッピーエンドでもあった。第二週の展開にも期待が高まる終わり方に、視聴者から<こんな朝ドラを観たかった!>との声が続出したのも当然だったと言えそうだ。