その場面に既視感を覚えた視聴者も少なくなかったようだ。
10月18日放送のNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」第12回では、ヒロインの岩倉舞(浅田芭路)が模型飛行機作りの本を探しに古書店の「デラシネ」を訪れる場面が描かれた。その店内に置かれている数々の本に、視聴者が沸き上がっていたという。
舞は店主の八木巌(又吉直樹)に、幼少時の父・浩太(高橋克典)が模型飛行機を手にしている写真を見せながら「飛行機の作り方が載ってる本、ありますか?」と質問。八木は3冊の候補を並べてみせ、舞は「初心者でもよく飛ばせる!模型飛行機」という本を購入していた。
この場面に、多くの朝ドラファンがビビッドに反応していた。それはデラシネの書棚に置いてある本の背表紙がアップになり、書名や著者を読み取ることができたからだ。
「書棚では奥の側に有吉佐和子の『恍惚の人』や作家・永井荷風の作品集といった、本物の古書を並べていました。それに対して手前のほうには番組側で作ったオリジナルの古書を並べており、そのなかには過去の朝ドラに出演していたキャラクターが著者となった本が何冊も紛れていたのです」(テレビ誌ライター)
たとえば「草若落語全集」の著者である徒然亭草若は、2007年下期の「ちりとてちん」でヒロインの喜代美が弟子入りした落語家だ。また「おっと、どっこい」や「楽天乙女」という本の作者になっている花岡町子は、2006年下期に放送された「芋たこなんきん」のヒロインなのである。
そして「家族の欠片」の作者・水野アスカは、2005年下期の「風のハルカ」にてヒロイン・水野ハルカの妹というキャラ。このように朝ドラがらみの小道具が用意される小粋な演出のなか、意外にも民放ドラマに関係すると思われる本も用意されていたという。
「画面右側のほうには『死の夜行列車』という推理小説があり、その著者は沢木麻沙子。これは1998年~2002年に全5回放送されたドラマ『ニュースキャスター沢木麻沙子』(フジテレビ系)の主人公と同名です。その沢木はテレビ京都『ニュースタイム7』のキャスターでありつつ、本業は推理作家という役柄。なぜ同ドラマを唐突に取り上げたのかは不明ですが、沢木を演じた羽田美智子は2009年下期の『ウェルかめ』など朝ドラ3作品に出演した実績があり、当時の関係者がアイデアを出したのかもしれません」(前出・テレビ誌ライター)
NHKの朝ドラで民放ドラマに関連したネタが観られるとは驚きだが、実はその後の場面にはもっとあからさまに民放ドラマを意識した場面が映し出されたという。
それは舞の父親でネジ工場を営む浩太が納品先から呼び出され、取引の打ち切りを宣告されるという重要なシーン。納品先の担当者は冷徹に「もうよそにお願いしました」と宣言し、取りつくしまもなかった。この場面があの人気ドラマのリスペクトになっているというのである。
「取引を打ち切られた浩太を見て、2013年7月期の日曜劇場『半沢直樹』(TBS系)を思い出した人も多かったことでしょう。同作では主人公・半沢直樹(堺雅人)の父親でネジ工場を営む慎之助(笑福亭鶴瓶)が、取引銀行の大和田暁(香川照之)に騙されて工場が倒産。大和田に必死にすがり付く姿を覚えている視聴者も多いはずです。今回の『舞いあがれ!』では同じネジ工場を舞台に、浩太に取引打ち切りを宣告した担当者が鶴瓶の弟子である笑福亭銀瓶だったという隠し技を披露。まさかここで“笑福亭”繋がりの半沢直樹リスペクトが観られるとは、ドラマ好きの視聴者は驚くとともに感心しきりだったことでしょう」(前出・テレビ誌ライター)
これでもかというほどに小憎いネタを詰め込んでくる「舞いあがれ!」。どのシーンにも見どころが詰まっており、視聴者からは「録画が消せない!」との嬉しい悲鳴もあがっているようだ。