【舞いあがれ!】ヒロインの舞が「女性扱い」されないストーリーが支持されるワケとは

 こんなストーリー、朝ドラではかなり珍しいほうではないだろうか。

 NHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」は11月4日放送の第25回で第5週の放送が終了。ヒロインの岩倉舞(福原遥)が人力飛行機「スワン号」のテストフライトに臨み、滑走路からふわりと浮き上がるまでの軌跡が描かれた。

 6月のテストフライトでは前任パイロットの由良冬子(吉谷彩子)が操縦を担当するも、突風にあおられて墜落。左脚骨折でパイロットを失ったスワン号だったが、後輩の舞が代役に志願し、8月のテストフライトを迎えていた。

 その舞は浪花大学で航空工学を学んでおり、人力飛行機サークル「なにわバードマン」では3人いる1回生の一人。舞を含めて全11人が所属する同サークルでは、同じく女性の由良を含めて全員が、舞のことを「岩倉」と苗字で呼んでいる。

「同サークルでは“永遠の3回生”こと空山(新名基浩)が周りから畏敬の念を込めて『空さん』と呼ばれているのを例外とすれば、全員がお互いを苗字で呼び合っています。部長の鶴田(足立英)が由良に恋をしていることはみんな知っているものの、鶴田も決して由良を『冬子』などと呼ぶことはありません。そして1回生の舞に対しても、他のサークルだったら舞ちゃん呼びになりそうなところを、全員が岩倉と呼んでいるのが印象的です」(テレビ誌ライター)

 18歳のうら若き美人女子大生でありながら、誰も舞のことを女性扱いしていないなにわバードマン。なにしろ舞が代役パイロットに立候補した際には全員が見つめるなかで体重計に乗っていたほか、3回生で胴体担当の渥美(松尾鯉太郎)が慣れた手つきで舞の肩幅を測っていたものだ。舞も当たり前のように渥美に身体を任せており、周りも誰一人としてその計測風景を茶化したりしなかったのである。

舞の体力測定を見守る部員たち。誰も舞を女性としては見ておらず、初心者の成長ぶりに注目していた。トップ画像ともに©NHK

 その様子について一部からは「理系文化だからでは?」と推測する声もあるようだ。だが舞自身は工学部の学生ではあるものの、浪花大学には文系学部もある様子。部長の鶴田や設計担当の刈谷(高杉真宙)らは同じ理系であるものの、他の部員たちが理系かどうかは示されておらず、そもそも女性部員の由良も理系か文系かは分からずじまいだ。

「飛行機オタクには意外と文系も多いのです。もちろん設計など専門分野は刈谷のような理系の学生が担当しますが、実際の機体制作ではむしろ手の起用さが求められ、そこには理系も文系も関係ありません。実際、ANAやJALのパイロットには文系出身者も数多いですし、なにわバードマンの『苗字呼び文化』は別のところに理由がありそうです」(飛行機に詳しいトラベルライター)

 そんな人力飛行機サークルが舞台になっているからなのか、本作では25回まで終わった現在に至ってもまだ、ヒロインの舞を巡って色恋に関する話題が一回も出てきていないことにお気づきだろうか。

 いまさら前作の話を持ち出すのも申し訳ないが、「ちむどんどん」ではヒロインの暢子がさばさばした性格だった一方で、高校では陸上部のキャプテンから好かれていたり、幼馴染の智が暢子を追いかける形で上京していたもの。ヒロインの色恋は朝ドラにおいてわりと普遍的なテーマだろう。

「だからといって『舞いあがれ!』を巡って、視聴者から《色恋の要素が足りない》といった声が出ているとは寡聞にして聞いたことがありません。いまや観る者全員がスワン号のフライトに注目しており、舞の恋愛話など誰も求めていないのです。視聴者は《12人目のなにわバードマン》といった視点で彼らのサークル活動を応援。その点で本作には、スポ根マンガ的な魅力があふれているのではないでしょうか」(前出・テレビ誌ライター)

 本作で現在のところ「女性」であることに着目しているポイントは、スワン号が「女性パイロットによる最長飛行記録」に挑んでいるということだけ。それは前任パイロットが由良だったことで、機体設計が必然的に女性の体格を前提にしたからであり、決して女性ありきで考え付いたものではないことは明らかだ。

 そういった「サークルの総意」のもと、全員が一つの目標に向かって全力を尽くしている状況で、色恋要素など不要なのは明らか。視聴者がスワン号の成功を祈る限り、舞を女性扱いしないストーリーが支持されるのも当然のことなのかもしれない。