【舞いあがれ!】リュー北條「パンチがない」のアドバイスで見せた敏腕編集者の片りん!

 決して批判の声ばかりではなかったようだ。

 2月10日放送のNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」第91回では、長山出版で短歌を担当する編集者のリュー北條(川島潤哉)が、歌人の梅津貴司(赤楚衛二)に対して「パンチがない」などと言い放つ場面があった。それらの言葉が賛否両論を呼んでいるという。

 長山短歌賞を受賞し、同社から歌集を出すことになった貴司。300首を用意して北條に見せるも、パンチがないと断じた彼は「全体的に淡すぎるんだよ。もっと濃厚な歌が欲しい」とリクエストだ。

 貴司はシステムエンジニアとして入社した会社を辞め、放浪の旅に。各地で働きながら、自分の気持ちを短歌に込める生活を送ってきた。そういった人生について北條は、「その時の絶望とか、社会への燃えたぎるような怒り」を書くようにリクエスト。貴司がそんな怒りはないと否定すると、「なくても書けばいい、フィクションで」とアドバイスしたのである。

「その言葉に黙っていられなかったのが歌人の俵万智。放送直後に『フィクションのために心が叫んでも、いい短歌にはならんのよ、リュー北條!』とツイートし、4000件ほどのいいねを集めています。視聴者からは賛同のリプが寄せられていましたが、なかには別の見方を提示するリプもあったのは興味深いですね」(出版関係者)

 一部の視聴者からは、同じ男性だからこその気づきがあるのではとの指摘も。貴司が用意した短歌のなかには、幼馴染でヒロインの舞(福原遥)を想って詠んだのが明らかな作品もあった。果たして貴司は舞のことを本当はどう思っているのか。幼馴染で友達という淡い関係のままでいいのか。心の奥底にある本心をさらけだしてこそ、彼の心をむき出しにした短歌が詠めるのかもしれない。

 ここで注目したいのは、貴司の一番のファンを公言する秋月史子(八木莉可子)への対応だ。貴司の短歌が全体的に淡すぎると批判した北條に詰め寄った史子は、「梅津先生の短歌は淡いところが素晴らしいんです」と反論。世の中の醜さにあえて背を向け、小さな美しいものに希望を見出していると強調した。

 見ず知らずの女性にそうまくしたてられたら、ベテラン編集者としては腹も立ちそうなところ。ところが北條は「さっそく若い女性ファンが付いたか。思った通りだよ!」と、史子の登場に喜んでいたのである。

「北條は初めて貴司に会った時から、そのイケメンぶりを重視。『歌集売りたいなら、顔が大事よ?』との持論を口にしていました。そんな彼にとって史子の登場はまさにしてやったり。彼女の反論についても、これほど熱量の高いファンがいるとむしろ喜んでいたことでしょう。史子が熱くなればなるほど、北條の見立ては正しかったことになります」(前出・出版関係者)

北條をにらみつける史子。その視線が強ければ強いほど、北條にとってはしてやったりだ。トップ画像ともに©NHK

 俵と同じように、フィクションを書けと指示する北條に反発する視聴者は少なくないことだろう。ただ、同じ編集者の視点から見れば、北條は必ずしも「フィクション」(虚構)を書くことを指示したわけではなく、あくまで例えの一つと見るべきだというのである。

 北條はこれまでの会話を通じて、貴司が女性に対して淡泊なことに気づいているはず。だからこそ史子のような美人が「梅津先生の一番のファン」であることに、してやったりとの気持ちがあるはずだ。

 その一方で貴司の短歌を読めば、「千億の星に 頼んでおいた」と願いたくなるような「君」の存在にも気が付くというもの。その想いこそが北條が貴司にリクエストした「ドロドロしたやつ」なのではないだろうか。

「次週予告では、貴司と舞が公園で向かい合う場面がありました。それが愛の告白なのかどうかは分かりませんが、北條が『ドロドロした』歌を詠むようにけしかけなかったら、貴司は一歩踏み出せなかったはず。自分が担当する歌人にそういった行動を取らせた時点で、北條は編集者として有能だといえそうです」(前出・出版関係者)

 果たして貴司は歌人として一本立ちしていくことができるのか。そのためには史子以外にも数多くのファンを獲得する必要がある。視聴者の中にも「梅津先生」の歌集を読みたいと思っている人は多いであろういま、ここが歌人としてのターニングポイントになるのかもしれない。