その言葉に、もう片方の家族を思い浮かべた視聴者も多かったのではないだろうか。
3月31日放送のNHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」第106話では、ハリウッド映画「サムライベースボール」の出演者が決定し、ヒロインの大月ひなた(川栄李奈)が勤務する京都の条映太秦映画村にて撮影が行われる様子が描かれた。
同映画ではハリウッド側が条映に協力を依頼しており、コスチュームの一部も任されることに。ハリウッド側で足袋を試作するも上手くいかなかったようで、条映のほうで雉真繊維製の足袋を用意することになったのである。
「戦前から足袋を作り続けてきた岡山の雉真繊維は、ヒロイン・ひなたの親戚筋。創業者は曾祖父で、現社長の雉真勇(目黒祐樹)は大叔父にあたります。勇が所用のついでに京都にある大月家に寄った際、ひなたは雉真の足袋が映画に採用されたと報告。その言葉に勇は男泣きしたのでした」(テレビ誌ライター)
勇は「雉真の足袋がこねえな形でひ孫の仕事の役に立つたあ、父さんも草葉の陰でどねえに喜んどるじゃろう」としみじみ。「作り続けてよかった。守り続けてよかった」と言葉を継ぎ、「わしゃあ 今 心から そねん思う」と感慨深そうにしていたのだった。
そんな勇の想いがひなたに伝わったのはもちろん、ひなたの母であるるい(深津絵里)にも強く響いたのは確実だろう。雉真繊維はもともと、るいの父である稔が継ぐはずだった会社。しかし稔が戦死したことで、弟の勇が後継者となっていた。つまりるいにとって雉真の足袋は、父親の形見も同然だったと言えよう。
そして今回、勇が語った「ひ孫の仕事の役に立つ」という言葉が、もう片方の家族にとっても象徴的な意味を持っていたというのである。
「雉真繊維はるいにとって父方の実家。一方で母親・安子(上白石萌音)側の実家は、戦災で店を閉じた『御菓子司 たちばな』でした。戦後、安子は兄の算太(濱田岳)と共にたちばなを再興しようとしていましたが、算太が開業資金を持ち逃げしたことでとん挫。安子は進駐軍将校のロバートと共に渡米してしまい、娘のるいは天涯孤独となっていたのです」(前出・テレビ誌ライター)
ただるいは、幼いころからあんこの作り方を安子から教わっており、そのあんこを使った回転焼きの店を開業。それが現在、大月家の家業となっている。このようにたちばなの味は今に受け継がれているが、すでになくなったはずの「御菓子司 たちばな」についても現在に受け継がれている可能性があるというのだ。
3月17日に放送された第96話では、るいが夫の錠一郎(オダギリジョー)を伴って、岡山のジャズ喫茶を訪問。そこは錠一郎がお世話になっていたマスター柳沢定一(世良公則)の息子とひ孫が経営している店だった。すると店には「たちばな」と書かれた包み紙に入った和菓子が。その場面に視聴者のあいだからは<たちばなが再興していた!?>との声が続出していたのである。
「この《たちばな再興疑惑》は、放送から2週間が経った今もまだ回収されていません。一方で今回、雉真の足袋が現ヒロイン・ひなたの《仕事の役に立った》ことが示されたことで、視聴者のあいだからは同じようにたちばなのあんこや和菓子もひなたの役に立つのではとの期待が盛り上がっているのです。しかもたちばな再興の真相に迫ることで、未だ行方が知れない安子の謎についても進展がありそう。どうやらハリウッド映画をきっかけにして、物語の伏線が一気に回収されそうな勢いとなってきました」(前出・テレビ誌ライター)
今週から怒涛の伏線回収に入っている「カムカムエヴリバディ」だが、視聴者が最も気にしている安子の行方については話がなかなか進まないまま。だが今回、雉真の足袋をきっかけに、安子の真実に近づく道筋が示されたのかもしれない。