50年前も現在でも、男女間の会話が難しいことに変わりはないようだ。
5月17日放送のNHK連続テレビ小説「ちむどんどん」第27回では、比嘉家の長女・良子(川口春奈)が結婚観を巡って石川博夫(山田裕貴)と言葉を交わす場面があった。
短大時代からの勉強会仲間である博夫のことを密かに思っている良子。この日も自宅や職場から離れた名護のハンバーガー店にて、博夫とのプチデートを楽しんでいた。ここで博夫から、同じ勉強会仲間の東江里美(松田るか)が婚約したとの情報を聞いて驚いたのであった。
博夫によると里美は、大きな貿易会社の御曹司と見合いしたとのこと。良子が「お金のために結婚…」とつぶやくと、博夫は「結婚は家と家の経済的な結びつきという面もある」と説明し、ある程度打算的な結婚であっても頭ごなしに否定することはできないとの持論を明かしていた。
ここで良子が「もし私が、家族のために打算的な結婚をするといっても?」と訊ねると、博夫は戸惑った様子を見せつつも「それは、君が望むなら」と返答。反対しないのかと畳みかける良子に、博夫は「君自身の、人生の重大な決断を下すのは、君しかいない。そうだろ?」と返していた。これには良子も「そうですね」と答えるばかりだったのである。
「この会話を巡っては、打算的な結婚に否定的な良子と経済的な理由での結婚を肯定する博夫という、結婚観の違いが浮き彫りになったと捉えた視聴者も少なくなかったことでしょう。もしくは心の中で信夫への愛情が燃え上がる良子と、良子のことは好きだけどまだ結婚までは考えていない博夫との温度差が露わになったと見ることもできます。ただこの場面で本当に表面化したのは、実は二人の会話がちゃんと噛み合っていないという現実だったのではないでしょうか」(女性誌ライター)
この会話を「議論」として捉えた場合、博夫はあくまで自分が考える結婚観を主張していたことになる。それに対して良子にとってこの会話はあくまで「恋バナ」であり、博夫に対して自分と結婚する気があるかどうかを問いただしたのも同然との見方もあるはずだ。
博夫にとっては「打算的な結婚もあり」という結婚観と、「良子のことが好き」という感情はまったくの別物。それは男性にありがちな思考パターンだと言えるかもしれない。一方の良子にしてみれば、打算的な結婚を持ち出した自分を否定しない博夫には「私のことを好きではないんだな」と諦めの気持ちを持ってしまっても不思議はないのである。
「この会話が原因となって、博夫を想う良子の気持ちが冷めたとしても、博夫は自分のせいだとはつゆにも思わないでしょう。そもそも二人が同じ次元で『結婚観』を語っていない時点で、二人の相性はあまり良くないのかもしれません。そうなると良子の気持ちが、自分に対して熱烈な愛情を隠そうとしない喜納金吾(渡辺大知)へと向かう可能性も、決してゼロではないように思われます」(前出・女性誌ライター)
製糖工場の息子で、職場の小学校にまで押しかけて求愛する金吾のことを、完全に拒絶していた良子。しかし、博夫の気持ちが自分に向いていないと勘違いしてしまったいま、誰よりも自分のことを求めてくれる金吾に対して好意が芽生える可能性は十分にありそうだ。
「博夫にしてみれば、とくに好意を抱いていなかった里美の結婚はあくまで他人事であり、だからこそ冷静に『打算的な結婚もあり』と断言できたのでしょう。しかし良子に対する好意があるのなら、その持論を脇に置いてでも良子への気持ちを素直に表すべきでした。この調子ではたとえ良子と博夫が結婚することになっても、価値観とは別のところで《話が噛み合わない》ケースが表面化し、上手くいかなかった恐れが十分にありそうです」(前出・女性誌ライター)
いつの時代も男女のすれ違いというのは、話が噛み合わないところから生まれてくるのかもしれない。