その場面が美談っぽく描かれる点こそが、本ドラマの本質なのかもしれない。
6月3日放送のNHK連続テレビ小説「ちむどんどん」第40回では、終盤で比嘉家の三女・歌子(上白石萌歌)が高校を卒業。運送会社の普久原運輸にて事務員として働き始めた姿が描かれた。
その歌子は前年、東京のレコード会社が主催した新人発掘オーディションに挑戦。予選は突破するも、最終審査では発熱による体調不良で倒れてしまい、失格に終わっていた。
だがそんな経験も前向きに捉えられるようになった歌子は、東京で働くヒロインで姉の比嘉暢子(黒島結菜)に電話をかけ、「この回り道にはきっと意味があると思って、これからも歌い続ける」と宣言。今後も歌手に挑戦し続ける姿勢を示したのである。
「このように前向きな歌子は、初めての給料で山原村の自宅に電話を開通させました。昭和49年(1974年)当時の設備料(いわゆる電話加入権)は5万円。そして高卒の初任給も当時は5万円程度だったので、給料を丸ごと費やして電話を引いたことになります」(テレビ誌ライター)
母親の優子(仲間由紀恵)は「ありがとねえ! まさか歌子に電話引いてもらえるとは」と大喜び。歌子も「これで暢ネーネーといつでも連絡取れるね」と明るい表情を見せ、新品の黒電話に優子は「すごいねえ」と目を丸くしていた。
なんとも前向きな歌子と優子の姿に、高年齢層の視聴者は自宅に初めて電話を引いた時の喜びを思い出したかもしれない。一方で多くの視聴者は優子と同様に「スゴいね!」と感心していたようだが、そのベクトルは優子とは真反対だったというのだ。
「なにしろ比嘉家には、長男の賢秀(竜星涼)が2年前に東京のボクシングジム会長らから借りた60万円という借金があるはず。おそらく叔父の賢吉に頼み込んで銀行からお金を借り、会長に返していたはずです。初任給の12倍という大金ですし、当時は利息も相当に高かったはず。ところが比嘉家は歌子の給料を借金返済に費やすでもなく、ほぼ全額を電話加入権の購入に使ってしまいました。そんな調子だから賢秀が投資詐欺に引っかかったり借り逃げするのも無理はなく、比嘉家のルーズすぎる金銭感覚には視聴者もバカ負けしていることでしょう」(前出・テレビ誌ライター)
しかも比嘉家では小学校教員だった長女の良子が出産し、仕事も辞めるという。大事な働き手が一人減ったなか、貴重な収入源である歌子の給料をパーっと使ってしまう姿には、視聴者のほうが「アキサミヨー!」と驚きたい気分だ。
だが一部では、比嘉家の借金はキレイさっぱりなくなっているとの見方もあるというのだ。それは一体どういうことか?
「良子が結婚した時、相手の石川家からは結納金をもらっているはず。相場は給料の2~3カ月分だそうなので比嘉家の借金総額には足りませんが、夫の博夫(山田裕貴)は良子にぞっこんですし、相手方は三代続く教師の家庭で生真面目な家柄ですから、借金がある家とは結婚できないとして代理返済した可能性すらありえます。ともかく本作において借金はあくまで物語のスパイスであり、決して本質ではありません。比嘉家が借金に苦しむ姿はもう、描かれないかもしれませんね」(前出・テレビ誌ライター)
ともあれ歌子には、自宅の電話は決して通話料無料ではないことを肝に銘じて、東京の暢子と長電話しないことを祈るばかりだろう。