感動シーンの裏には、どうしてもぬぐえない疑問も浮かびあがっていたようだ。
6月17日放送のNHK連続テレビ小説「ちむどんどん」第50回では、沖縄から上京した比嘉優子(仲間由紀恵)が、イタリア料理店「アッラ・フォンターナ」にオーナーの大城房子(原田美枝子)を訪ねた様子が描かれた。
優子の亡き夫・賢三(大森南朋)にとって、房子は伯母にあたる存在。かつて賢三が急逝した際に房子は、比嘉家の4きょうだいから誰か一人を引き取ってもいいとの手紙を送っていた。
今回、初めて房子に会った優子は「子供を引き取ってもいいとおっしゃっていただいた時、最後にはお断りしてしまい、申し訳ありませんでした」と謝罪。それに対して房子は「賢三は、あなたのような方と家族に会えて、幸せだったと思います」と、亡き甥のことを偲んでいたのだった。
「この場面では初めて会った二人が、亡き賢三の思い出を語り合う姿が視聴者の心を打ちました。戦後、復員した賢三は房子の店を手伝っていましたが、『いったん沖縄に戻って出直してくる』と店を出てからは二度と戻ることがなく、房子は賢三に対して愛憎の入り混じった複雑な感情を抱いていたようです。しかし今回、優子との会話から賢三が幸せな家庭を築いていたことを実感し、自らの振る舞いを反省していたようにも見えました」(テレビ誌ライター)
フォンターナではいま、賢三・優子夫婦の次女・暢子(黒島結菜)が働いている。様々な偶然によって引き寄せられた暢子に、表面上は親戚だからといって特別扱いしないとの態度を見せている房子。しかし今回の会話シーンでは「怖いんです。私にとってあの子がどんどん大切な存在になっていくのが」と語っており、賢三の娘である暢子にも血の繋がった者としての愛情を抱いていることを示していた。
その暢子がいつかは賢三と同様に、自分の元を去ってしまうのではとの恐れを抱いている房子。その気持ちは視聴者にもビビッドに伝わっていたはずだ。その一方で、今回の会話シーンを通じてあらためて、視聴者が疑問に感じていたポイントが浮上してきたというのである。
「賢三の死後、きょうだいの一人を引き取る意向を示した房子ですが、そもそも彼女がどうやって賢三が亡くなったことを知ったのかが謎なんです。房子からの手紙が届いた当時、第9回では賢三の叔父である賢吉(石丸謙二郎)が房子について『親の代に移住して、ウチら会ったこともないし、親戚づきあいもしてないからね』と語っていましたからね」(前出・テレビ誌ライター)
この時は、村の役員を務める前田善一(山路和弘)が「賢三さんが亡くなったと人づてに聞いて」と説明していた。しかし親戚づきあいがないうえに、房子は横浜・鶴見のリトル・オキナワで沖縄県人会会長を務める平良三郎(片岡鶴太郎)とも、しばらく連絡を取っていなかった様子だ。
なにしろ当時はネットやケータイもなく、東京と沖縄の電話は10円で2.5秒と高額だった時代。しかも房子と賢三の関係を知る者さえ少ない状況で、房子がいったいどうやって賢三の死を知ったのか、どうにも謎でしかないのである。
「善一は第8回で優子に『役場に賢三の遠縁の人から問い合わせがあったそうだけど』と伝えていました。この口ぶりから、善一が伝えた可能性もなさそうです。しかも当時は沖縄の返還前ですから、東京と沖縄の行き来も面倒だった時代。そんな背景があるのに、作中で簡単に『人づてに聞いて』で済まされるのはなんとも納得のいかないところでしょう」(前出・テレビ誌ライター)
もしや房子と賢三は密かに連絡を取り合っていたのか。それとも脚本上の単なるご都合なのか。視聴者のモヤモヤした気持ちは当面、晴れることがなさそうだ。