これはさすがに脚本のミスと言わざるを得ないのではないだろうか。
7月22日放送のNHK連続テレビ小説「ちむどんどん」第75回では、ヒロインの比嘉暢子(黒島結菜)が新聞記者の青柳和彦(宮沢氷魚)と結婚の約束を果たす場面でエンディングを迎えていた。片や幼馴染からのプロポーズを断り、片や結婚式場まで押さえていた彼女との婚約を破談にしていたことから、もろ手を挙げて「おめでたい」とは言えない視聴者も少なくなかったようだ。
暢子は仕事と結婚は両立できないとの考えを持っていたが、前日の第74回では母親の優子(仲間由紀恵)から、亡父の賢三(大森南朋)と出会って結婚した経緯を初めて聞かされることに。その話を聞いた暢子は「うちたちは絶対に幸せになる!」との決意を口にしていた。
また第75回では、勤務するイタリア料理店のオーナーにして大叔母でもある大城房子(原田美枝子)から「両方つかみなさい! 仕事も結婚も。つかみたくてもつかめなかった人たちの分まで」と電話で叱咤激励されることに。血縁者二人からの言葉に大いに感化された彼女は、仕事を取って結婚をあきらめるという生き方を捨て去ったのだった。
「優子と房子の話を聞いたことで、和彦と結ばれることになった暢子。そもそも優子が賢三との過去について語ってくれたのは、6年ぶりに比嘉家の4きょうだいが実家に揃ったからでした。暢子はもともとお盆に帰省する予定でしたが、その直前に優子が前田善一(山路和弘)と再婚するとの噂が持ち上がることに。これは一家の一大事とばかり、千葉の養豚場で働く長男の賢秀(竜星涼)も暢子に飛行機代を借りて、一緒に帰省することになったのです」(テレビ誌ライター)
優子と善一の再婚話は、賢三の叔父である賢吉(石丸謙二郎)が持ち込んだもの。善一は優子が働く村の共同売店で責任者を務めており、妻に先立たれていた。人柄がよく、一人娘の早苗(高田夏帆)がすでに東京で結婚していたこともあり、優子の再婚相手にはぴったりだと判断されたのだろう。
そして善一自身も優子との再婚には前向きだったが、優子は「生まれ変わっても賢三さんと結婚する」との思いから再婚話を断ることに。その判断自体はともかく、このエピソードを巡って一部の視聴者はこんな疑念を抱いていたのだという。
「というのも善一が、独り身になった優子に金銭的な援助を与えていたとの疑惑が持ち上がったのです。それが事実であれば、再婚話を断るなどとんでもないこと。しかもその援助については優子自身が子供たちに語っていたというのですから、さすがに優子の態度は酷すぎるのではないかとの批判が渦巻くことになりました」(前出・テレビ誌ライター)
果たして優子は子供たちにどんな説明をしていたのか。第74回の当該場面を振り返ると、優子は「善一さんも毎年寄付をしてくれている。善一さんは本当にいい人さ。いつもうちたち家族の味方でいてくれて。だけど再婚はしない」と語っていた。この説明だとたしかに、比嘉家の味方である善一が毎年、優子に寄付してくれていたように聞こえるのである。
だがそれは、視聴者側の誤解だというのだ。というのも善一が寄付していた相手は比嘉家ではなかったというのだが…。
「善一について語る直前に優子は『房子さんも陰ながらずっと援助してくれている』と語っていました。この言葉が《房子による比嘉家への援助》という意味であれば、たしかに善一の寄付も比嘉家宛てということになります。ただこの前の場面では、横浜・鶴見の沖縄料理店で東洋新聞社の田良島デスク(山中崇)が、沖縄で続けられている遺骨収集作業について語る場面が。その流れから考えると優子が口にした“援助”や“寄付”というのは、遺骨収集を行っている嘉手刈源次(津嘉山正種)宛てということで間違いないでしょう」(前出・テレビ誌ライター)
つまり“援助”や“寄付”について理解するためには、沖縄と鶴見の二カ所を行ったり来たりする演出において、両方の話が繋がっているとの前提が必要となる。沖縄では沖縄の話、鶴見では鶴見の話と分けて考えてしまうと、「比嘉家に対する援助」という誤解が生まれてしまうというワケだ。
「しかし実際には《優子が善一から援助されていた》と勘違いする人が続出。これは正直なところ、分かりづらい演出が原因だと指摘せざるを得ないですね。そもそも房子や善一が《誰に援助や寄付をしていたのか》という目的語さえハッキリさせておけば、こんな誤解が生じる余地もなかったはず。それゆえ視聴者が誤解してしまったのは《書き手は全体像を知っているが、読み手は書かれている文章からしか読み取れない》という基本中の基本を外してしまった制作側に原因があることは明らかでしょう」(前出・テレビ誌ライター)
ただでさえ、様々なディテールの甘さが指摘されている「ちむどんどん」。せめて各出演者にしゃべらせるセリフにおいては、説明足らずにならないように配慮してもらいたいものだ。