一貫していないのはストーリーだけではなかった? そのシーンに違和感を抱いた視聴者も少なくなかったようだ。
7月28日放送のNHK連続テレビ小説「ちむどんどん」第79回では、新聞記者の青柳和彦(宮沢氷魚)が、母親の重子(鈴木保奈美)と喫茶店で言い争う場面があった。その際に「怪奇現象」と呼びたくなるような出来事があったという。
沖縄出身のヒロイン比嘉暢子(黒島結菜)と結婚の約束を交わした和彦だが、重子は家柄の違いを理由に大反対。一計を案じた暢子は得意の沖縄料理で重子をもてなそうと考えたものの、今回の冒頭では暢子が作った沖縄料理の数々を、ろくでなしの兄・賢秀(竜星涼)に食い散らかされてしまうドタバタ劇が描かれた。
「前回のラストシーンでは、料理を用意し終わった暢子がよそ行きの服に着替えているとき、階下で物音がする場面で終わっていました。ほとんどの視聴者が《どうせ賢秀が来たんだろ》と思っていたところ、案の定、その通りの結果に。しかも競馬に負けた賢秀がテーブルを叩き、『酒、酒ください!』と叫んだところにちょうど重子が入ってくるというお約束の展開には、視聴者のほうも呆れかえっていたのです」(テレビ誌ライター)
そんなベタな展開に視聴者が呆れたのもつかの間、翌日に和彦が重子に謝りに行った場面では、さらに呆れ果ててしまう<話のすり替え>が発生したというのだ。
重子が朝食を摂る喫茶店を訪れ、「昨日はごめんなさい」と謝った和彦。すると重子は「今回のことでよーく分かったでしょ」と前置きした上で、「今は違うと思っても、結局母さんの言う通りにしてよかったと思う日が来る」と諭していた。だがここから重子が口にしたセリフは、つい先日までの主張とは話が食い違っていたのである。
二人の結婚を認めない理由は、あくまで「住む世界が違う」というものだった。沖縄の片田舎に生まれ育ち、それなりに高学歴なのは短大に行った長女だけという比嘉家に対し、青柳家は代々、大学教授や文筆家も多い学者肌の家柄。重子の実家は明治以来の実業家で、父親は銀行の重役という触れ込みだった。
それゆえ重子は、愛情よりも学歴や家柄のほうが信頼でき、暢子は和彦と釣り合わないと主張していたはずだ。ところが今回の喫茶店シーンで重子は「ずっと仕事を続けたい女性と結婚して幸せになれる?」と迫ることに。「家事や育児は誰がやるの? 仕事と両立できるわけがない」と、なぜか“働く女性”を否定する方向に舵を切っていたのである。
「家柄の話がいつの間にか《仕事にまい進する暢子を否定》にすり替わるという謎展開。もっとも、話の整合性が合わなくなるのは『ちむどんどん』の制作陣が得意とするところでもあり、視聴者のほうも《また出たよ…》とため息をつくばかりだったことでしょう。しかもこのシーンでは会話の内容だけではなく、《画面に映っているもの》でも整合性のない箇所が見受けられたのです」(前出・テレビ誌ライター)
それは重子と和彦のテーブルだ。和彦が来た時点でテーブルには、重子のカップだけが置かれていた。ところが二人が会話を続けているうちになぜか、和彦の前に謎の器が出現していたのだから驚きだ。
受け皿のないその器はさながら、角砂糖の入れ物といった感じか。水のコップにしては形が不自然だが、いずれにせよ和彦が席についてから二人は隙間なく会話を続けており、ウェイターが器を置くようなシーンはなかったのである。
「おそらくこの場面ではもっと長い会話が撮影されており、それを編集した結果、器の出現がおかしなタイミングになったのでしょう。編集ミスではあるものの、こういった入れ違いは映像作品ではザラにあります。ただ問題は、編集した結果の本編映像にて重子の発言にすり替えが発生したことです。脚本にもともと一貫性がなかったのか、それとも編集したことで一貫性のなさが強調されてしまったのか。ともあれ突然の器出現は、視聴者の違和感が表出してしまった象徴に思えてなりません」(前出・テレビ誌ライター)
家柄の違いは永遠に埋められないが、「仕事をする女性」への認識なら変えられるかもしれない。そんなご都合主義が、今回の“すり替え”を生んだのかもしれない。