これではせっかくの伏線が台無しになったのではないだろうか。
8月12日放送のNHK連続テレビ小説「ちむどんどん」第90回では、ヒロインの比嘉暢子(黒島結菜)と新聞記者の青柳和彦(宮沢氷魚)が披露宴をあげた模様が描かれた。そこで披露された衣装に、視聴者から疑問の声があがっていたという。
暢子が勤める東京・銀座のイタリア料理店「アッラ・フォンターナ」で催された披露宴にて、暢子と和彦はまず洋装で登場。暢子のウェディングドレスは花冠と胸元のレースが可愛らしく、視聴者にも<可愛い!><すごくキレイ>と好評だったようだ。
そしてお色直しでは、母親の優子(仲間由紀恵)が熱望していた沖縄伝統の“琉装”にお着換え。黄色を基調とした派手めの色合いは目にも艶やかで、帯を前で結ぶのが特徴だ。そんな琉装に視聴者も目を楽しませていたが、なかにはこんな疑問の声もあったという。
「そもそもウェディングドレスから琉装に着替えるのは大変なこと。それをフォンターナの狭い2階のどこで行なったのか、なんとも謎です。今回の披露宴では普段着で沖縄からやってきた妹の歌子(上白石萌歌)も振袖の着付けとヘアセットをどこかでやった模様。それどころか急きょ呼ばれた幼馴染の砂川智もいつのまにか礼服に着替えていました」(女性誌ライター)
もっともここは銀座。店の近くに着替えられるところもあれば、着付けをしてくれる人もいくらでもいるはずだ。あくまで琉装を見せるのが大事であり、着替え云々を論じるのは野暮というものだろう。
だがこの場面では、本来なら伏線として描かれていたはずの人物が、何の動きも見せていなかったことのほうが驚きだという。その人物は披露宴に出席していたのだが…。
「暢子の琉装を用意したのは、横浜・鶴見の平良多江(長野里美)でした。沖縄県人会長を務める平良三郎(片岡鶴太郎)の妻で、自分の母親から受け継いだ琉装を暢子に貸してくれたのです。琉装の着付けでは和服とは異なるところも多く、知識のある人でないと正しく着付けができないはず。ところが多江は着付けを手伝うことなく披露宴会場に滞留し、お色直しのあいだは優子と雑談していました」(前出・女性誌ライター)
多江は8月1日放送の第81回にて、鶴見の自宅で暢子に琉装の掛下を着せてあげていた。その際には「暢子ちゃんが困った時には必ず力になるから、なんでも相談してね」と語っていたものだ。
それゆえこの日の琉装も当然、多江がフォンターナに持ち込んでいたはず。お色直しの場面では多江と優子に加え、琉装の知識がありそうな大城房子オーナー(原田美枝子)すら披露宴全体の様子を見ており、誰も琉装へのお色直しを手伝っていなかったのである。
「制作陣は自分たちを『料理の知識のないおじさん』と自虐していましたが、どうやら衣装に関してもさほど知識がないようですね。この場面、普通に考えれば琉装に思い入れのある母親の優子か、琉装を貸してあげた多江が着替えを手伝うべき。その場面を描いたほうが、沖縄出身の暢子がわざわざ琉装にお色直しする意味も深まるというものです。しかしおじさんの発想では『琉装さえ着ていれば沖縄っぽいでしょ』ということなのでしょう」(前出・女性誌ライター)
物語を描くには、その背景を大切にすべき。だが本作ではせっかくの琉装すらも、単なる記号として扱われていたようだ。