なぜその制度を利用する必要があるのか。視聴者も疑問に思ったことだろう。
8月17日放送のNHK連続テレビ小説「ちむどんどん」第93回では、ヒロインの青柳暢子(黒島結菜)が沖縄料理店の開業資金として用意した虎の子を200万円を、マルチ商法の首謀者らに奪われる事態が発生した。
兄の比嘉賢秀がマルチ商法に騙され、違約金として200万円を請求されることに。本来なら明らかな違法行為なので無視すれば済むところを、家族愛にあふれて直情的な暢子は、降ろしてきたばかりの200万円を手にマルチ商法の本部に乗り込んだのだった。
夫で新聞記者の青柳和彦(宮沢氷魚)と、幼馴染の砂川智(前田公輝)も暢子に同行したものの、相手はいかにも反社風な5人組。暢子は200万円をあっさりと手渡してしまい、しまいにはパトカーのサイレンを聞きつけた相手が逃げ出したことで、大切な開業資金をみすみす失う羽目になってしまったのである。
「賢秀と暢子も大バカ者ですが、和彦と智が200万円のやり取りを傍観していたのも情けない話。そもそも相手に違約金を払う必要など一切なく、大事なお金は下宿先に預けて警察を呼んでいればよかったのです。もっとも制作陣としては、理由が何にせよ暢子が大金を失う場面を描きたかったのかもしれません」(テレビ誌ライター)
月末には物件の契約に必要な保証金と前家賃を納めないとならない暢子。しかし20代前半の彼女にとって200万円は、なけなしの郵便貯金に加えて地元の信用金庫から融資を受けたからこそ用意できた大金だ。それを失ったいま、彼女はゼロどころかマイナスから独立開業をやり直すハメになるのだろうか。
「マルチ商法での騒動が起きる直前、和彦は勤務先の東洋新聞社で『社員特別融資』について上司の田良島デスク(山中崇)に訊ねていました。具体的な用途は口にしなかったものの、暢子の商売が失敗した時に備えて、資金の肩代わりが目的の可能性も高そう。和彦の実家はそれなりに裕福ですが、父親が早くに亡くなったこともあり、母親の重子(鈴木保奈美)に金の無心をするような真似はしたくないのかもしれません」(前出・テレビ誌ライター)
愛する妻・暢子の商売を案じ、先手を打っていた和彦。善き夫だと感心する向きもあるかもしれない。だがここで和彦が社員特別融資の利用を検討していたことに、首をひねる人も少なくないというのである。
物語の舞台は昭和54年(1979年)となっており、第二次オイルショックの最中ではあったものの、すでに第一次オイルショック(昭和47年)の経済危機からは立ち直っていた時期だ。大卒初任給は10万9500円とついに二桁の大台に乗り、なかでも給与水準の高い新聞記者は我が世の春を謳歌していた。
新聞の総発行部数は年間4000万部を突破し、前年には読売新聞が発行部数世界一(共産圏を除く)とギネスブックから認定。昭和40年代には朝読毎の三大紙がいずれも本社社屋を新築し、海外にも次々と支局を開設するなど、当時の大手紙は令和のIT企業さながらに最先端な情報産業だったのである。
「和彦は30歳を迎える年で、1年留学していたとしても入社7年目にあたるはず。しかも彼は5年以上も前から横浜・鶴見の沖縄料理店に下宿しており、家賃負担も少なかったことでしょう。その暮らしぶりから贅沢をしている様子も見られず、200万円超の貯金があってしかるべき。それがなぜ社員特別融資を利用しようとしているのか、実に疑問ではないでしょうか」(週刊誌記者)
そうなると和彦には、表に見えないところに浪費癖が隠れているのだろうか。思えば7月18日放送の第71回で急きょ沖縄に取材旅行に飛んだ時、上司の田良島デスクから「ただしこの取材はいったん自腹だ」と告げられた時には、相当驚いた顔で「えっ!」と聞き返していたものだ。新聞記者の給与水準なら沖縄行きの飛行機代くらい、どうってことないはずだが。
「人間、どこに浪費癖が隠れているのか分かったものではありません。坊ちゃん育ちの和彦ゆえ、一般人の感覚では浪費家と言えるほどに、食事や着るものに金をかけている可能性もあります。そもそも暢子と結婚した後も、二人が住んでいる下宿から出ないのも妙な話。料理店の2階に二人で引っ越すための方便かもしれませんが、あまりに不自然であることは否定できません」(前出・テレビ誌ライター)
和彦の母親・重子は当初、生まれも育ちも大きく異なる暢子との結婚に否定的だった。その見立ては結局のところ、間違っていなかったのかもしれない。