いくらドラマだからと言って、現実を完全に無視した設定には、驚きを通り越して呆れる声が広まっているようだ。
8月22日放送のNHK連続テレビ小説「ちむどんどん」第96回では、ヒロイン青柳暢子(黒島結菜)の姉で小学校教員の石川良子(川口春奈)が、沖縄・山原小学校の給食改革に精を出す様子が描かれた。その回にてあり得ない描写が連発していたという。
良子は娘の晴海(佐藤風和)が普段の食事で野菜を残したり、学校給食で多くの生徒たちが野菜を苦手にしている現状を憂慮。地元の畑では新鮮で美味しい野菜が採れることから、それを給食に活かすというアイデアを思いついた。
給食主任を任された良子は山原小学校の教頭に相談。教頭は「名護の栄養士さんが決めた献立を勝手に…」と否定的だったが、良子はすでに栄養士が賛成してくれていると語り、教頭も「了解得てるわけね。なら頑張ってみたらいいさ」と認めていた。
一方、調理員で“安室のおばぁ”こと安室トメ(あめくみちこ)は、村では出荷をしたことのない農家も多く、給食用の野菜を安定して納めてもらうのは無理だと主張。良子は足りない分を仕入れ業者にお願いするとの案を出すも、トメは仕入れ先が分かれたら検品も大変で手間が何倍もかかるとの理由で反論していた。
それでも頑固者の良子は「手間がかかって大変なら私も手伝います」と一歩も引かない様子。果たして山原小学校の給食問題はどうなるのか。いつものごとくあっさりと解決する可能性が高いようだが、そもそもこの給食論争そのものが「絶対にありえない」というのである。
「まず良子が教頭に相談している時点ですでに間違っています。学校給食は自治体で予算を管理しており、本作であれば山原村の村役場が年間予算に計上。仕入れ業者とは年間契約を結んでいるはずです。そして給食に関しては昭和31年制定の『地方教育行政の組織及び運営に関する法律』により、自治体の教育委員会が管掌。いくら山原村が田舎だからと言っても学校側に給食の自由裁量権などありません。そもそも教頭は給食の予算に関わる権限を持っておらず、『なら頑張ってみたらいいさ』と認めることなどありえないのです」(教育現場に詳しい週刊誌記者)
年間予算や納入業者が決まっている以上、年度の途中からいきなり地場野菜を給食に活用することは不可能だ。そういった取り組みを行っている自治体は全国各地にあるものの、それらのケースではかなり前の時点から給食の内容や予算について何度も資料作りや会議を重ね、予算案に落とし込んだうえで教育委員会と折衝。相当な手間を経たうえで、年間計画に地場野菜の活用を盛り込んでいるのである。
それが本作では、一教員に過ぎない良子の思い付きが、自治体の予算を飛び越えて実現しそうな勢いだ。しかし良子はれっきとした地方公務員であり、公立の義務教育が予算ありきの年間計画で動いていることは当然に知っているはず。よもや昭和54年の山原村には、教員のアイデアがすぐに予算化される仕組みでも存在していたのだろうか?
「まさか本作の制作陣は学校給食を、ヒロイン暢子の沖縄料理店開店と同列に考えているのでしょうか? その暢子でさえ開業資金を信用金庫から融資してもらう際には、何枚にも渡る事業計画書を提出していました。それがまさか山原小学校では、良子の思い付きだけで予算が簡単に変更できたりするのか。良子が強い意思を持とうが頑固者であろうが、地場野菜を給食に活用するアイデアが実現するのはどんなに早くても次年度の話でしょう」(前出・週刊誌記者)
とは言え現実とは異なる世界線で動いている「ちむどんどん」のことだから、制作陣には“年度”の概念などないのだろう。おそらくは今週中にも、山原小学校の給食に地場野菜が登場することは目に見えている。
しかしいくらドラマとは言え、描いてもいい虚構とダメな虚構の区別は存在するはず。これで<良子の夢は叶わなかった>という現実が描かれるなら、逆に視聴者のほうが驚いてしまうのかもしれない。