妻は妻、夫は夫という新時代の夫婦像を提示しているのだろうか?
8月25日放送のNHK連続テレビ小説「ちむどんどん」第99回では、ヒロインの青柳暢子(黒島結菜)が念願だった沖縄料理店の開業に向け、店の準備に精を出す様子が描かれた。その姿に新婚の夫・和彦(宮沢氷魚)との対比が浮き彫りになったという。
東洋新聞社の記者だった和彦は、暢子の兄・賢秀(竜星涼)も被害者となったマルチ商法の騒動に巻き込まれ、乱闘騒ぎを起こすことに。それが週刊誌にスクープされたことで退社を余儀なくされ、自ら辞表を提出していた。
フリーの記者となった和彦は、自分の企画を売り込みに様々な出版社を回っていた。今回は暢子が信用金庫の職員と話をしているところに和彦が帰宅し、月刊誌に企画を採用されたことを嬉々として報告したのである。
「仕事が決まったと語る和彦を、暢子は心からの笑顔で『はっさ! おめでとう』と祝福していました。一方で暢子は店で雇う料理人の候補として元同僚の矢作知洋(井之脇海)を探していますが、未だに手掛かりはなし。すると和彦は『早く見つかって話ができるといいね』と、まるで他人事のような感想を口にしていたのです」(テレビ誌ライター)
暢子は妊娠2カ月という身重の妊婦。しかも料理店の開業は初めてで、不安なことはいくらでもあるはずだ。和彦は新聞社を辞めていくらでも時間はあるはずなのに、暢子のサポートをする様子はなし。フリー記者としての売り込みに余念がないようだった。
もっとも料理や経営に関して門外漢の和彦ゆえ、そういった無関心ぶりも、あえての距離感なのかもしれない。おそらくは妻の暢子を自立した一人の女性として尊重しているのだろう。だがそんな和彦と暢子を巡っては、食に関して夫婦として不自然な点が見受けられるというのである。
「この二人、長年の友人であるにも関わらず、一緒に外食するシーンがまったくないのです。二人が食事を共にするのは自宅を別とすれば、共通の下宿先だった横浜・鶴見の沖縄料理店『あまゆ』だけ。暢子は長年、東京・銀座のイタリア料理店『アッラ・フォンターナ』に勤めていましたが、あくまで客とコックの関係だったため、一緒にテーブルを囲んだのは和彦の母親・重子(鈴木保奈美)を招いた時だけでした」(前出・テレビ誌ライター)
昭和53年(1978年)の8月に告白し、翌54年の3月に結婚した二人。7か月の交際期間があったにもかかわらず、一度たりとも二人のデートが描かれることはなかった。もちろん外食シーンなどあるはずもない。
そもそも物語全体を通しても、暢子が沖縄とイタリア以外の料理を食べるシーンは皆無。妹の歌子(上白石萌歌)とフランス料理店に行ったことはあるが、その時もレストラン内のシーンはなかったのである。
料理人がヒロインなのに、あまりにも食事のシーンが少ないのはどうしたわけか。それはやはり、制作陣が「僕たちおじさん3人は料理の知識が全くないんです」と開き直っていることが大きな理由のひとつだろう。しかもその開き直りが和彦のことを、約束を守らない不誠実な人物に仕立てあげてしまっているというのだ。
和彦は沖縄に滞在していた中3当時、暢子に世界中の美味いものを食べさせると約束していた。4月15日の第5回では「東京に遊びに来いよ。美味しいものいっぱいあるぞ」と語りかけ、4月22日の第10回では「いつか東京に来いよ。美味しいもの、世界中の美味いものを食べさせてやるからな」と豪語していたのである。
「そこから十数年が経ち、新聞記者として相当な給料をもらっていた和彦なら、いくらでも暢子と一緒に美食巡りを楽しめたはず。ところが肝心の制作陣に料理の知識がないためか、作中に沖縄とイタリア以外の料理はおでんしか出てこない有様です。暢子と交わした《世界中の美味いものを食べる》という約束も、和彦が忘れているというよりも、制作陣の頭からすっぽり抜け落ちているのでしょう。そもそも食に興味のないスタッフが料理人をヒロインに据えたドラマを作ること自体、無理があったのではないでしょうか」(前出・テレビ誌ライター)
各国料理どころかラーメンや牛丼、寿司や焼肉といった当たり前の料理すら出てこない「ちむどんどん」。ヒロインの暢子は食いしん坊という設定だったはずだが、そんな超基本的な人物設定すら忘れ去られてしまっているのかもしれない。