【六本木クラス】りくのトランスジェンダー告白シーンを描くため、原作が巧みに改変されていた!

 これが日本流のアレンジだ。この改変には原作ファンも納得していたのではないだろうか。

 9月8日放送のドラマ「六本木クラス」(テレビ朝日系)第10話では、料理対決番組に挑んだ居酒屋「二代目みやべ」料理長の綾瀬りく(さとうほなみ)が、本番直前に心を折られそうになる姿が描かれた。その陰には制作陣による、巧みな演出が隠されていたという。

 幼少時から自分の性別に違和感を抱いていたりくは、トランスジェンダーとして生きていくことを決意。前回の第9話では店を休んで手術を受け、身も心も女性になった姿を見せていた。

 主人公で店長の宮部新(竹内涼真)をはじめとする二代目みやべのスタッフは全員、りくをあるがままに受け入れていた。だが料理対決番組で対戦する長屋ホールディングスの長屋龍二(鈴鹿央士)にとっては、りくの存在が大きなチャンスとなっていたのである。

「二代目みやべから長屋HDに移籍した龍二は、知り合いの記者にりくに関する記事を依頼。息子がトランスジェンダーになったと知った両親がショックを受けているとのネットニュースが、番組本番の直前に掲載されたのです。両親には自分から話そうと思っていたりくは、記事のせいで大きなショックを受けることに。これで二代目みやべの勝利は遠ざかったように思えました」(テレビ誌ライター)

二代目みやべに勝つため手段を選ばない長屋龍二は、新の恋人的な存在の楠木優香(新木優子)と一緒に働いている。トップ画像ともに©テレビ朝日

 料理長がトランスジェンダーという設定は、原作の韓流ドラマ「梨泰院クラス」からそのまま受け継いだもの。原作でりくに相当するマ・ヒョニは、自分がトランスジェンダーであることを近しい仲間以外には隠しており、暴露記事によりバレてしまったことにショックを受けていた。

 その梨泰院クラスは2020年の作品で、わずか2年前とは言えジェンダーに対する世間の見方は現在とはかなり異なっていたもの。それゆえ梨泰院クラスでは、マ・ヒョニがトランスジェンダーだと分かったことにより、テレビ局のスタッフたちがあからさまに好奇な目を向けていたのだろう。

 そこを「六本木クラス」では、両親との軋轢を問題の主軸に据える形にアレンジ。しかも今回の第10話よりも前に、暴露記事に至る経緯を伏線として盛り込むという改変を加えていたのである。

「第8話では、龍二の父親である長屋HD会長の長屋茂(香川照之)に対して、解任決議案が叩きつけられました。当時まだ二代目みやべの店員だった龍二は、店の屋上でりくと二人きりに。茂が新に酷い仕打ちをしてきたことを知りつつも父親の身を心配し、『変ですよね?』と自問していたのんです。そんな龍二に対し、りくは『変じゃないよ。自分も小さいころから親といろいろあったけど、何があっても親だしね』とアドバイス。このやり取りで龍二は、りくと両親の関係を知ったのでした」(前出・テレビ誌ライター)

 このシーン、「梨泰院クラス」でも店の屋上でチャン・グンス(龍二に相当)がマ・ヒョニに同じような悩みを吐露していた。だがマ・ヒョニは「当然のことだ。誰が何と言おうと父親だろ?」とアドバイスしただけ。自分と親の関係についてはひと言も口にしていなかったのである。

「りくがトランスジェンダーについて告白するシーンは物語の大きなハイライトとなっています。その場面を巡って『六本木クラス』の制作陣は、親との軋轢という要素を盛り込むために、どこかでりくに親との関係を語らせる必要がありました。そのために絶好のシーンが、りくと龍二が二人きりで話をする第8話だったわけです。二人が屋上で話すシーンを見ていた視聴者は、まさかそこでの会話が第10話への伏線になっているとは、思いもよらなかったことでしょう」(前出・テレビ誌ライター)

 この調子だと、今回の第10話で描かれていた何気ない場面も、実はあとから伏線として意味を持ってくるのかもしれない。そう思えるほどに「六本木クラス」オリジナルの伏線は巧みに張られていたのではないだろうか。