こうやってヒロインの成長を表すのか! その演出に視聴者も驚いていたようだ。
10月13日放送のNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」第9回では、ヒロインの岩倉舞(浅田芭路)が祖母の祥子(高畑淳子)に緊急事態を知らせるために、全力疾走する様子が描かれた。その走り方に驚く視聴者が続出したという。
母親めぐみ(永作博美)の故郷である長崎・五島に転居し、祖母の祥子と二人暮らしを始めた舞。移住から一カ月が経ち、東大阪に住んでいた時に比べると熱の出る回数は減っていたが、それでも体育の授業は休んでいた。
舞はある日、友人・浦一太(野原壱太)の自宅に、祖母が作った手作りジャムを持参。すると応対した母親の莉子(大橋梓)が突然産気づき、「誰か呼んできてぇ」と頼まれた舞は祥子を呼ぶために、海岸沿いの道を全力疾走していったのだった。
「テーマ曲明けには舞と祥子の二人が同じ道を逆方向に全力疾走。2日前に68歳の誕生日を迎えたばかりの高畑が息を切らして走る姿には、2作前の朝ドラ『カムカムエヴリバディ』にて、アニー・ヒラカワ役の森山良子が74歳にして岡山の街じゅうを逃げ回っていたシーンを思い出した視聴者もいたことでしょう。そして舞は、莉子の家族を呼ぶためアオサ取りをしている浜にも全力疾走。ドローンを駆使した空撮映像では五島列島の美しい海岸が映し出され、必死に走る舞がどれほどの距離を走ったのかが一目で分かる演出となっていました」(テレビ誌ライター)
両手を振って、力の限り走っていた舞。祥子が操縦する漁船で莉子は大きな病院に運ばれ、無事に出産していた。その帰り道、港で祥子から「舞、熱は出とらんとね?」と訊ねられ、額を押さえながら「多分出てへん。あんなに走ったのに」と驚く舞。
祥子は舞が走って自分を呼びに来たことを褒め、「莉子さんやみんなが助かったとよ。頑張ったとね」と舞のことをねぎらっていた。五島に転地療養した舞が体力を取り戻している様子が描かれた場面となっていたが、実はこれらのシーンが「伏線回収」にもなっていたというのである。
「第1回の放送で舞は、東大阪の小学校で飼育係に任命されていました。彼女はいつもケージのすみっこにいるうさぎをスミちゃんと命名して可愛がっていたのですが、そのスミちゃんが脱走。同じく飼育係の望月久留美(大野さき)と一緒にスミちゃんを探しますが、校庭を走る舞の足取りはいかにも重く、明らかに体力をセーブした走り方になっていたのです」(前出・テレビ誌ライター)
砂場にいたスミちゃんを発見した二人。駆け寄った舞は両手を膝に置き、いかにもしんどい様子で肩で息をしていたほどだ。その様子に久留美は「ごめんな、走らしてしもて」と気遣い、舞は「ええねん、私も飼育係なんやもん」と応えていたが、周りの生徒たちも舞があまり丈夫でないことを知っていることを示していたのである。
そんな4月の場面から五島へと移り住み、いつしか長い距離を全力疾走できるようになっていた舞。ヒロインが五島での生活で体力を取り戻している姿を、劇中では彼女の「全力疾走」で表していた。それは第1回で示した「しんどそうに走る姿」という伏線を、見事に回収した瞬間だったのではないだろうか。
「この『舞いあがれ!』では伏線回収にしろ状況説明にしろ、さりげない映像や言葉で雄弁に物語る場面が多く、実に感心させられます。今回の第9回では友達の一太が大きなばらもん凧を舞に見せるシーンがあり、その際に一太は『慶太んために作っちょっとさ』と説明。慶太という名前はこの場面が初出で、唐突に感じた人もいたことでしょう。すると一太は『慶太は身体ん弱い赤ちゃんじゃけん。こっから元気に育つようにって』と言葉を続け、このセリフで視聴者は、慶太が先ほど病院で生まれたばかりの赤ちゃんであることをたちどころに理解できたのです」(前出・テレビ誌ライター)
物語が重層的に組み立てられていることが実感できた、舞の全力疾走。視聴者としても一つ一つの場面やセリフが見逃せないと、あらためて本作に惹きこまれたに違いなさそうだ。
※トップ画像は浅田芭路公式インスタグラム(@asada_halo__official)より。