その場面に自らの幼少期を思い出し、胸がキュッと締め付けられた視聴者もいたことだろう。
10月13日放送のNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」第9回では、ヒロインの岩倉舞(浅田芭路)が、友達に自分の気持ちを誤解されてしまう場面が描かれた。その姿から、生まれ育ちが違うことによるすれ違いに想いが及んだ視聴者もいたようだ。
小3の舞は転地療養のため、東大阪から長崎・五島列島に転居。祖母の祥子(高畑淳子)との二人暮らしを始めていた。五島ではばらもん凧という大きな凧が名物の一つであり、10月10日放送の第6回では友達となった同級生の浦一太(野原壱太)から凧揚げに誘われたのだった。
だが凧揚げが初めての舞は上手く操作できず、一太から「舞、走らんね!」と促されるも、全力疾走に抵抗感があるためか足が動かず、凧はあえなく墜落。それが舞にとってはいわばトラウマとなっていたのである。
「今回の第9回では、一太が長さ2メートルもある大きな凧を舞に見せました。それは生まれたばかりの弟・慶太の健康を願って祖父が作ったもので、一太は一緒に揚げようと舞を誘います。しかし舞は、大事な凧をまた壊してしまうことへの恐れから、その誘いを断ることに。『無理なもんは無理や』と断り続ける舞に、一太は『せっかく誘っちょっとに。もうよか!』と怒ってしまったのです」(テレビ誌ライター)
すっかり一太の気持ちを害してしまった舞。しかし彼女が凧揚げを断ったのはあくまで、大事な凧を壊したくないという優しい想いだったからなのは明らかだ。
祖母の祥子はそんな舞に、「舞は人ん気持ちば考えらるっ子たい」と孫娘の気持ちをねぎらいつつ、「じゃばってん自分の気持ちも大事にせんば」とアドバイス。自分の想いを言葉にして伝えることが大切だという意味なのは明らかだろう。
だが、舞が感じていた居心地の悪さは果たして、自分の想いを打ち明けられないことだけが原因だろうか。そこには埋めることの難しい「生まれ育ちの違い」があると考える人も少なくないというのである。
次の場面では、浦家に赤ちゃんが生まれたことを祝う宴会が催され、舞も祥子と一緒に参加。大人たちは酒を楽しみ、子供たちがトランプで遊ぶなか、舞は子供たちの輪に加わることなく、一人で黙々と食事していたのだった。
「私自身も小学生の時に、親の転勤でこれといった縁のない田舎に暮らしていたことがあります。子供同士はすぐに打ち解け、野球や鬼ごっこなどで遊んでいましたが、正直なところ、心が通じ合っていないなと思う場面は少なくありませんでした。それゆえトランプの輪に入れない舞の姿を見ると、当時のことを思い出してしまい、胸が苦しくなってしまうのです。それは都会育ちの子と田舎暮らしの子のどちらかに責任があるという話ではなく、どうしても埋められない生まれ育ちの違いから生まれる疎外感の問題なのかもしれません」(芸能ライター)
本作において、東大阪で生まれ育った舞は五島の子供たちと完全に心を通わせることができない、という筋書きなのかどうかは定かではない。しかし、そんな状況を示唆するような演出もあるという。
それは、五島に来て4カ月経った舞が未だに、大阪弁でしゃべり続けていることだ。本作では五島弁と大阪弁での会話で問題なく意思疎通ができているものの、本来、子供というのは影響されやすいもの。完全に大阪弁が抜けるには時間が掛かるにしても、4カ月も生活していれば五島弁の単語が自然とボキャブラリーに追加されていきそうなものだ。
しかし舞の言葉は相変わらず、ピュアな大阪弁のまま。これは舞の心に「五島での暮らしは仮住まい」という想いがあるからではないか。それは決して悪いことではなく、むしろ自然な感情のはず。なにしろ母親のめぐみは東大阪に戻っているのだから、舞の心が五島にどっぷり浸かることがありえないのは無理もない。
「舞が大阪弁で話し続ける限り、一太ら五島の子供たちにとっても『舞はお客さん』という意識があるもの。決して舞を仲間外れにするつもりはなくても、目に見えない壁ができてしまい、舞が疎外感を抱くのは無理のないことなのです。その壁を《あってはならないもの》と決めつけるのは大人の傲慢に過ぎません。むしろ壁があることを認めたうえで、どうすればその壁をより簡単に乗り越えられるのかを考えるほうが、よほど建設的ではないでしょうか」(前出・芸能ライター)
一太は東大阪から来た舞を、すぐに受け入れていた。些細なことで誤解が生まれてしまう壁はあるものの、その高さは子供たちにこそ乗り越えやすいものなのかもしれない。