10月14日放送のNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」第10回では、ヒロインの岩倉舞(浅田芭路)が大きなばらもん凧を揚げる場面がハイライトの一つとなった。ここで発したセリフや演技に、視聴者が感心しまくっていたようだ。
何かと引っ込み思案だった舞はこれまで、様々な場面で「やめとく」と、自分の気持ちを押さえ続けてきた。それが五島列島に移り住んでからは積極的な姿勢が芽生えはじめ、この日は冒頭で自ら友人の浦一太(野原壱太)に、凧揚げに参加したいと伝えていたのである。
「舞が一太に『私も、ばらもん凧あげたか!』と告げた場面には多くの視聴者が驚かされたことでしょう。東大阪から五島に来て4カ月が経ち、舞が初めて『あげたか!』と五島弁を口にしたからです。五島での暮らしを通じて、自分の気持ちを表に出すことができるようになってきた舞。少しだけですが五島弁を受け入れたことは、そんな内心の変化を象徴していたに違いありません」(テレビ誌ライター)
そして迎えた凧揚げの日。この日のばらもん凧は、生まれて間もない一太の弟・慶太の健やかな成長を願って揚げるものだ。
そんな大事な凧を一太は「先に飛ばしてみんね」と舞に託す。「舞からやろうって言ってきたとは初めてやけん」と語りかける一太は、舞が自分に正直な気持ちを打ち明けてくれたことが、よほど嬉しかったのだろう。
以前の舞だったら、かつて一太のばらもん凧を墜落させて壊してしまった経験から、ここで「やめとく…」と断っていたもの。それがこの場面ではしばし逡巡したうえで明るい表情となり、「うん、やってみる!」と意を決していたのであった。
そんな舞の変化に視聴者も頬を緩ませるなか、この場面でほんの一瞬だけ垣間見せた演技に、感心する声もあがっていたという。
「舞は『やってみる』と言い終わるくらいのタイミングで、一瞬だけ目線を一太から外していました。その目線の先にいたのは祖母の祥子(高畑淳子)。その目の動きはまるで『おばあちゃん、私やってみるね!』と目で伝えていたように見えたのです」(前出・テレビ誌ライター)
これまでの舞であれば一太に返事をする前に、助けを求めるような表情で祥子を見ていたはず。それが今回は自ら凧揚げを決心したのと同時に、チラっと祥子に目線を送っていた。それは「やめとく」から「やってみる」へと変化した心の機微の表れだったのではないだろうか。
一太らみんなの助けを得ながら見事、凧揚げに成功した舞。五島の真っ青な空に高く揚がるばらもん凧の光景は実に美しく、船大工の木戸(哀川翔)が「ばえー! 壮観やね、こいは」と手を叩く姿は、視聴者の気持ちを代弁していたかのようだ。
「祖母の祥子も嬉しそうにその凧を見あげていました。すると舞は『ばんばー! 凧、私が揚げた!』と満面の笑みで呼びかけたのです。“おばあちゃん”から“ばんば”へ。呼び掛け方の変化もまた、舞の中で何かが大きく変わった様子を、まざまざと見せつけてくれたのではないでしょうか」(前出・テレビ誌ライター)
その日は興奮でなかなか寝付けなかった舞だが、それでも熱を出すことはなかった。その様子を見て、舞を東大阪に戻すと決めた祥子。彼女は孫娘から初めて「ばんば」と呼ばれた瞬間を、決して忘れることはないだろう。