【舞いあがれ!】飛行機関連で「考証ミス」が散見されるも、視聴者は完全スルーしていた!

 これこそが「ドラマのあるべき姿」なのかもしれない。

 10月14日放送のNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」第10回では、転地療養のため長崎・五島列島に転居していたヒロインの岩倉舞(浅田芭路)が、東大阪の実家に戻っていく姿が描かれた。その作中にいくつかの「考証ミス」が紛れ込んでいたという。

 本作は飛行機への憧れを持つ舞が、様々な人々との触れ合いを通じて成長していく姿を描く物語。そのテーマゆえ、随所に飛行機が登場するのも特徴の一つだ。

 祖母の祥子(高畑淳子)と同居する五島では、空を見あげては飛んでいく飛行機に目を奪われる舞の姿が何度も映し出されていた。また第10回では東大阪に帰る際、母親のめぐみ(永作博美)に「大阪まで飛行機で帰ったらあかん?」とおねだりし、実際に母娘でフライトを楽しむ姿も映し出されていた。

 二人で並んでシートに座る姿は、第1回の冒頭で岩倉家の4人が飛行機に乗っているところとほぼ一緒の光景。今回は父親と兄の姿こそなかったものの、早くも第1回で示した光景が伏線として、回収される形となっていた。

「五島では名物のばらもん凧揚げを体験し、真っ青な空を何度も見上げていた舞。都会の大阪よりも空の青さは濃く、その美しさと広さには子供心にも魅了されたことでしょう。また、祖母の祥子は亡夫から受け継いだ漁船で瀬渡しなどの仕事に従事しており、おばあちゃんが大きな乗り物を操縦している姿に格好良さを感じていたはず。それらの体験から、飛行機のパイロットになりたいという意思が芽生えていたことは想像に難くありません」(テレビ誌ライター)

 第10回では舞とめぐみの乗った飛行機が飛び立つシーンが映し出されていたが、その機材はエアーニッポンが1970~2003年に運航していたYS-11(JA8761)。物語の舞台である平成6年(1994年)にはピッタリの機材選定であったうえに、いまや民間では全機が退役済みのYS-11が離陸するシーンはとても貴重な映像だ。合成っぽさもなく、おそらくはNHKが誇る映像アーカイブに残っていたものを流用したのだろう。

埼玉県所沢市の所沢航空公園には、エアーニッポンの所属だったYS-11が静態展示されている。

 そのように航空ファンがしびれまくる場面が描かれた一方で、考証ミスと指摘せざるを得ない箇所もいくつか散見されたという。

「五島からフェリーに乗った舞とめぐみは長崎港に向かったはず。すると長崎から大阪(伊丹)までの飛行機に乗ったことになりますが、1994年当時、同路線はすでに全便がジェット化されており、YS-11に乗ることはできませんでした。これが五島-長崎路線ならまだYS-11が飛んでいたのですが、祖母の祥子と港で別れるシーンを描くためには、どうしても五島発のフェリーに乗る必要があったのでしょう」(トラベルライター)

 また、二人が乗り込んだフェリーから見る福江港(作中では福中港)には海上保安庁の船が映っており、その船腹には「JAPAN COAST GUARD」の文字が読み取れた。しかし海上保安庁が英文表記を「Japan Maritime Safety Agency」から変更したのは2000年4月1日のこと。それゆえ1994年当時の船影としては不適切だったのである。

 さらに細かいことを言えば、舞たちがばらもん凧を揚げる前に記念撮影をしたシーンでは、一眼レフカメラがアップになっていた。そこで読み取れたレンズのモデルは、1995年発売のズームレンズ。これもまた厳密な時代考証には外れていたことがある。

 ただ、これらの「考証ミス」など、本作の視聴者はおそらくほとんどがスルーしており、誰も気にしていなかったのではないだろうか。

「その理由としてはまず、これらのミスが物語に何の影響も及ぼさないことがあげられます。YS-11がどの路線に飛んでいたかなどマニアだけが興味を持てばいい話ですし、海上保安庁の船にしても戦前や戦中が舞台のドラマに映っていたならいざ知らず、1994年の舞台設定で2000年以降のデザインが映りこんでいたなど誤差の範疇でしょう。そんな些細なことにまで正確性を求めだしたら、既婚女性がお歯黒をしていない時代劇はすべてアウトになってしまいます」(前出・テレビ誌ライター)

 そしてもう一つの理由は、制作側が物語の舞台に対して示しているリスペクトだ。この“五島列島編”では五島の海や海岸、街並みや教会など様々な美しい風景を映し出し、墓参りでの念仏踊りやばらもん凧など、現地の習俗も紹介。五島の魅力をたっぷりと伝えようとする意図が、画面からも伝わってきたのである。

 そして永作博美や高畑淳子らの演者は、地元・長崎の視聴者も驚くほどに流ちょうな五島弁を披露。「こんなおばあちゃん本当にいるよ」と、観る者をぐいぐいと物語に惹きこんでいったのだ。

「そういった制作側の努力や工夫に加え、ちょっとした言葉や仕草で物語を進行させる脚本と演出の巧みさ、そして演者たちの素晴らしい演技により、『舞いあがれ!』は早くも多くの視聴者を虜にしています。第10回で舞が五島を発つシーンでは、号泣する視聴者が続出。それも物語に没頭すればこそです。それほどまでに観る者を惹きこむ力を持った本作において、多少の考証ミスなどまさに誤差の範疇でしかありません」(前出・テレビ誌ライター)

 本作のファンからは、舞を演じる子役の浅田が第3週にも出演することを喜ぶ声が続出している。次週予告を見る限り、第3週の途中で舞が一気に成長し、浅田から福原遥にバトンタッチするのは確実。そんな“別れ”もまた、視聴者を大きく感動させることは確実だろう。