だから東大阪だったのか! その必然性に、視聴者も思わず身震いしていたかもしれない。
10月17日放送のNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」第11回では、ヒロインの岩倉舞(浅田芭路)が飛行機への憧れを父親の浩太(高橋克典)に打ち明ける場面が描かれた。そこからの展開に、本作の舞台が大阪・東大阪市である理由が垣間見られたという。
祖母の住む長崎・五島で一学期を過ごした舞は、東大阪に戻った二学期からは元の小学校に通うことに。部屋には祖母からもらったばらもん凧を飾り、父親の浩太に「今日な、初めて飛行機乗ってん。かっこよかったで」と打ち明けていた。
すると浩太は自分も飛行機が好きだと明かし、「お父ちゃんが子供のころ、生駒の山からグライダーが飛んでてな。いつまでも落ちんと飛び続けて、そらかっこよかった。見てると元気になったもんや」と、子供のころの思い出を語っていた。さらに舞を物置に案内し、グライダーや飛行場の写真をたくさん挟んだアルバムを見せたのだった。
「浩太が『これが昔飛んでたグライダーや』と言いながら指さした写真には『東飛式 SA-2型』との説明が。その周りには『生駒滑空場』『八尾 大正飛行場にて』と説明書きされた写真が貼られていました。驚くべきことに、これらはすべて本物の写真なのです」(飛行機に詳しいトラベルライター)
生駒滑空場とは現在、生駒山上遊園地の駐車場になっている区画にかつて存在したグライダーの離発着所。昭和15年(1940年)に大阪電気軌道(現・近鉄)が整備し、昭和18年には海軍の奈良航空基地となっていた。戦後は1970年代まで使われており、関西圏の大学航空部などが利用していたという。それゆえ浩太が覚えているのも納得だ。
その生駒山は大阪府東大阪市と奈良県生駒市の県境となっており、テレビ局の送信所があることでも有名。大阪府民には憩いの地として人気で、その山容を仰ぎ見る東大阪市では数々の学校で校歌に歌われている。
また大正飛行場は、現在の八尾空港のこと。ここもかつては自動車やモーターに牽引されたグライダーが離陸していたほか、生駒山から飛んだグライダーの着陸地としても使われていた。八尾市は東大阪市の南側に隣接しており、空港は舞の自宅がある近鉄大阪線沿線から10キロも離れていない場所にある。
そしてグライダー「東飛式 SA-2型」は昭和28年(1953年)に、生駒山にて28時間8分という滞空記録を樹立した機体だという。しかもこの機材は東大阪市内の高校に保管されているというのだ(レプリカとの説もあり)。
「浩太がねじ工場を営んでいるように、東大阪は町工場の街として全国的に知られていますが、本作の舞台に東大阪が選ばれたのはむしろ、グライダーに縁の深い街だからではないでしょうか。舞は大学進学後、人力飛行機部に入部しますが、人力飛行機は原理的にグライダーに近い乗り物。将来的にはパイロットになる舞がヒロインのドラマゆえ、おそらくパイロット→人力飛行機→グライダーと逆算していくことで、物語のスタート地点を東大阪に定めたように思われます」(前出・トラベルライター)
しかも東大阪を舞台にすることで、航空機用の部品を浩太の工場が製造するという筋書きに繋げることもできそうだ。実際、第11回では浩太が、若いころに勤めていた会社で飛行機を作っていたと打ち明ける場面もあった。このように舞が東大阪に住んでいることや浩太が工場を営んでいること自体がすでに、重要な伏線だったのではないだろうか。この緻密な構成には視聴者も身震いするほどに驚いていることだろう。
第11回では浩太が次の日曜に、生駒山の遊園地で「飛行機に乗ろう」と提案。それは同遊園地のシンボルでもある「飛行塔」のことに違いないだろう。多くの大阪府民が「あれやな!」とひざを叩くなか、同遊園地の駐車場がかつてグライダーの滑空場だったことを覚えている人がどれくらいいるのか。東大阪の地元民にとっても新鮮な発見になるのかもしれない。