【舞いあがれ!】舞が父親の苦境を救った「いつもお世話になってます」の挨拶が示す背景とは

 その挨拶に、東大阪のねじ工場を巡る人間関係が表れていたようだ。

 10月20日放送のNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」第14回では、ヒロイン岩倉舞(浅田芭路)の父親が営むねじ工場にて試作品に挑戦する様子が描かれた。その過程で舞が大きな貢献を果たしていたという。

 父親・浩太(高橋克典)のねじ工場では、発注元から託された図面を基に、複雑な形状をした特殊ねじの試作品を作ることに。成功すれば新たな取引に繋がるものの、それまでは規格品しか作っておらず、設計図を基に特注品を作る「図面もの」はこれが初めてだった。

 納品日の当日には納得のいくレベルに達するも、もう少し追い込んだら完成という段階で、ねじを切る機械の電源が入らないというトラブルが発生。すぐに修理できるのは、浩太の飲み仲間である古田(湯浅崇)だけだった。

「浩太は工場の隣にある『お好み焼 うめづ』に駆けつけ、昼飯を食べようとしている古田に『古ちゃん、助けてくれ。機械いかれてもうたんや!』と頼み込みます。しかし古田のほうも納期の迫った仕事があり、『明日にしてぇな』と断られることに。がっくりと肩を落としてうめづを後にする浩太の姿には、視聴者も心配でならなかったことでしょう」(テレビ誌ライター)

 うめづの店主(山口智充)と女将(くわばたりえ)は、幼馴染の浩太に冷たい対応をした古田にさんざん嫌味を言うも、古田のほうも自分の仕事で納期を守れなかったら信用をなくすと反論。すると舞が、うめづの息子・貴司(齋藤絢永)と一緒に店に入ってきた。その舞が救世主になったのである。

 舞は工場で働き詰めの母親らに頼まれ、お好み焼きの持ち帰りを買いに来ていた。そんな舞に古田は気まずい表情だったが、事情を知らない舞は古田の隣に座って「あ、古田さん! こんばんは」と挨拶。愛想笑いする古田に対し「お父ちゃんがいつもお世話になってます」と笑顔を見せたのだった。それをきっかけに、古田も根負けして機械の修理に向かったのである。

「小3の女の子が父親の仕事仲間に『お世話になってます』と挨拶する姿に、納得する人もいたことでしょう。生まれ育った家庭の環境によって、父親の仕事仲間に対する距離感は大きく変わってくるもの。舞が育った東大阪は日本を代表する町工場の街として知られており、そこで働く人々は互いに協力関係にあります。その関係性は浩太と古田がお互いに古ちゃん、浩ちゃんと呼び合っていることからも明らか。それゆえ古田にとって舞は“仕事仲間の娘さん”として、赤ん坊のころから知っている間柄なのでしょう」(前出・テレビ誌ライター)

屈託のない笑顔を見せる舞と、愛層笑いの吉田。このコントラストもまた見事だった。トップ画像ともに©NHK

 これで浩太と古田が密接な人間関係を構築していなかったら、舞が古田に挨拶することもなかったはず。そして古田は浩太の都合などお構いなしに、自分の納期を守ることだけに専念していたはずだ。

 そして舞が古田に笑顔で挨拶することがなかったら、うめづの店主夫婦がいくら嫌味をぶつけたところで、やはり古田は自分の納期にこだわっていたはず。この切迫したタイミングで舞が古田に笑顔を見せたのは、なによりのファインプレーだったに違いないだろう。

「そんな密接な人間関係は、舞が1学期を過ごした“五島列島編”でも描かれていたもの。東大阪から五島に転居した舞でしたが、祖母・祥子(高畑淳子)の家に出入りしている近所の人たちは『祥子さんの孫娘』として、すぐに舞を受け入れていました。それゆえ同級生の一太(野原壱太)ともすぐ仲良くなれたわけです。五島と東大阪では生活スタイルは大きく違うものの、近所同士や仕事仲間が密な付き合いをしているのは一緒。だからこそ舞も、五島での暮らしにすぐに順応できたのではないでしょうか」(前出・テレビ誌ライター)

 五島の生活では祖母の祥子に助けられていた舞が、東大阪では苦境に瀕した父親の浩太を助けることになった。そこに舞の成長が表れていたのかもしれない。