たったひと言のセリフに彼女の想いが込められているとは、なんて素敵な物語だろうか。視聴者もそう感心していたことだろう。
10月24日放送のNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」第16回では、浪花大学に入学したヒロインの岩倉舞(福原遥)が、人力飛行機サークルの「なにわバードマン」に入部するいきさつが描かれた。ここで舞が発したひと言に視聴者が注目したようだ。
サークル見学の際に、主翼の一部を破損してしまった舞。女性パイロットで2回生の由良冬子(吉谷彩子)から「どないしてくれんの!?」と怒られてしまい、一度は退散する。しかし翌日、主翼の美しさに魅入られていた舞は再びボックス(部室)を訪れることに。翼を直すお手伝いをしたいと申し出るが、由良は「そない簡単なもんちゃうねん。帰り」とにべもない。
「すると舞は『この翼(よく)!』と話しかけ、由良は『えっ?』といった表情で振り返ることに。二人の会話を入口で聞いていた先輩部員の鶴田(足立英)も『その翼、好きなん?』と嬉しそうな表情で舞に話しかけ、入部を勧誘。『この翼の美しさが分かるんやろ?』と、舞が“こっち側”の人間であることをたちどころに理解していたのです」(飛行機に詳しいトラベルライター)
航空分野では「翼」は常に「よく」と読み、主翼や尾翼といった単語からも明らかだ。だが一般視聴者はそういった知識を持ち合わせていないもの。それがこの場面では舞が「つばさ」ではなく「よく」と発音したことで、由良や鶴田の態度が明らかに変わっており、その読み方自体に意味があろうことは、視聴者側にもすんなりと伝わっていたのである。
同様のさりげない演出は、舞と父・浩太(高橋克典)との会話にも表れていた。舞が嬉しそうに「発泡スチロールでできたリブがずら~っと並んでてなあ」と浩太に報告すると、浩太はオウム返しに「発泡スチロールでできたリブ作ってんのか!」と感心だ。
ここで画面はなにわバードマンが制作中の主翼へと替わり、リブがずら~っと並んでいる姿を映し出した。これで視聴者も<この青い部材がリブなのか>と一瞬で理解できたことだろう。そこにはテロップもナレーションもなく、セリフと画面の演出だけで物語がすんなりと見る側に伝わっていたのである。
そういったさりげない演出に加えて、今回も「東大阪らしさ」を表すシーンがあったという。それは岩倉家の長男・悠人(横山裕)が、自分の部屋で株価のチャートらしき画面に向き合っている場面だ。
悠人が画面に没頭しているとケータイが着信し、その画面には「実家」という文字と共に、06で始まる電話番号が表示された。だが岩倉家は東大阪市在住ゆえ、市外局番は大阪市内の06ではなく、072では? と思った視聴者もいたことだろう。
「この場面は『06』が正解です。というのも東大阪市は場所によって市外局番が異なり、それこそ市役所の電話番号も06。大阪市に隣接する旧布施市の地域が概ね06となっており、東側の旧河内市や旧枚岡市の地域が072ですね。作中で舞の行動範囲として映し出された工場街や小学校、古書店デラシネのある商店街などはすべて旧布施市内にあり、岩倉家が06の地域に住んでいることは確実でしょう」(週刊誌記者)
作中の至る所にまで神経が行き届いている「舞いあがれ!」。視聴者は余計な情報に戸惑うことなく、物語に没頭できていることだろう。