【舞いあがれ!】無理を承知でパイロット復帰を目指す鶴田の想い、その理不尽さに浮き出るテーマとは

 なぜ彼は、無理を承知でエアロバイクを漕ぎ続けていたのか。そのシーンに本作が描こうとしているテーマの一つが浮き出ていたのかもしれない。

 10月28日放送のNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」第20回では、浪花大学の人力飛行機サークル「なにわバードマン」で沸き起こった騒動が描かれた。夏の記録飛行に向け、人力飛行機「スワン号」のテストフライトに臨んだ部員たちだったが、突風にあおられた機体は墜落。2回生でパイロットの由良冬子(吉谷彩子)は左脚を骨折し、完治2カ月の重傷で入院を余儀なくされたのだ。

 機体は損傷し、テストパイロットも失われることに。もはや記録飛行も無理なのは明らかだ。しかし由良は、部長の鶴田(足立英)に「スワン号を飛ばしたいんです」と懇願。自分のためではなく「先輩方の最後の夏、こんなふうに終わらせたくないんです」と涙ながらに訴えたのであった。

「一方で部員たちは、由良のためだから徹夜で作業できるとの想いを抱いており、代役パイロットには否定的。前年度のパイロットだった鶴田は自分が代役を務めると主張するも、設計担当の刈谷(高杉真宙)は由良に合わせて設計した機体を鶴田用に変更するのは無理だと指摘し、自ら引退を宣言していました。もはやなにわバードマン自体が空中分解しそうな雰囲気だったのです」(テレビ誌ライター)

 機体の制作もストップし、ほとんどの部員はボックス(部室)にも寄らなくなっていた。そのなかで黙々とエアロバイクに取り組む鶴田。しかし身長174センチの彼がいくら減量したところで、155センチでしかも女性である由良の体格に近づくことは不可能だ。

 それでも一人、黙々とペダルをこぎ続ける鶴田。彼を突き動かす衝動は一体何なのだろうか?

「テストフライト前の飲み会では、鶴田が由良のことを好きだと周りがはやし立てる場面が。パイロット一筋の由良は否定していたものの、二人はまんざらでもない仲のようです。どうやら鶴田は後輩としての由良と、女性の由良の両方が好きなのでしょう。そんな彼女から《先輩のためにスワン号を飛ばしたい》と懇願されたら、その気持ちに応えたいと思うのも当然かもしれません」(前出・テレビ誌ライター)

 しかし、鶴田がいくら練習したところでスワン号を飛ばすことは不可能。なにしろ設計者の刈谷がさじを投げてしまっているのだから、肝心のスワン号そのものが完成しないのは明らかだ。それでも鶴田はペダルを漕ぎ続けるというのか。

「彼の行動に合理性はありませんが、若者の衝動というのはそもそも合理性を突き抜けていくもの。それが時には成功を呼び込むものです。次週の放送ではヒロインの岩倉舞(福原遥)がパイロットを志願しますが、鶴田が必死になって減量に励んでいなかったら、彼女もそこまで強い想いを持てたのか。そして部員たちもあらためてスワン号に取り組もうと思えたのかは難しいところでしょう。理屈を超えた鶴田の行動こそが、舞をはじめとする部員たちの心を打つ。そんな場面を制作側は描きたかったのではないでしょうか」(前出・テレビ誌ライター)

鶴田や由良の想いが心に染み入ったからこそ、舞は代役パイロットを志願したのだろう。トップ画像ともに©NHK

 飛行機が揚力を得て飛ぶ原理は、航空工学の分野でほぼ解明されてはいるものの、いまだに不明な点も残っているという。その不明点を追求しながら日々、飛行機の開発は前に進み続けている。

 同様になにわバードマンの部員たちも、不明点をはらみながら成長していくはずだ。単なる思い付きや偶然に頼るのではなく、失敗と苦悩、そして理不尽があるからこそ若者たちが前進していく。そんな成長物語に「舞い上がれ!」の視聴者たちは魅入られているのかもしれない。