【舞いあがれ!】高評価と裏腹に伸び悩む視聴率、その原因は「出来栄えの良さ」にあり!?

 そんなパラドックスがあり得るのか? 視聴者もその数字に驚いているようだ。

 福原遥がヒロインの岩倉舞を演じるNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」が好評だ。舞は浪花大学で航空工学を学ぶ1回生。人力飛行機サークルの「なにわバードマン」に入部し、先輩パイロットの由良冬子(吉谷彩子)が左脚を骨折したことで代役のパイロットに立候補した。持ち前の真面目さと、部員たちの熱い結束が視聴者の心を打ち、ネット上では<号泣した><涙なしには見られない>といった声が続出している。

 ヒロインを支えるキャストたちは母親のめぐみ(永作博美)と祖母の祥子(高畑淳子)が盤石の演技を見せ、父親の浩太(高橋克典)や兄の悠人(横山裕)もらしさを発揮。現在はなにわバードマンの部員たちが目立っており、部長の鶴田(足立英)や設計担当の刈谷(高杉真宙)、そして先輩の由良(吉谷)らが舞を支える様子に、自分が若かったころの姿を重ねる中高年の視聴者も多いようだ。

 あまりの評判のよさに、朝ドラ前作の「ちむどんどん」で猛威を振るっていた「反省会タグ」もすっかり沈静化。「#ちむどんどん反省会」のツイートでは数千いいねを集める例も珍しくなかったが、いまや「#舞いあがれ反省会」はすっかり閑古鳥が鳴いており、アンチによるツイートには一桁のいいねがせいぜいといった有様だ。

 ところがその好評ぶりに反して、なぜか視聴率のほうはさほど高まっていないというのである。

「第5週までの放送が終わった時点で、全25回の平均視聴率は15.9%。前作の『ちむどんどん』では同時期の平均視聴率が15.5%でしたから少しは上積みできているものの、その差はわずか0.4%に過ぎず、両作品における評価の違いを反映しているとはとても言えない状況です」(テレビ誌ライター)

 なお「舞いあがれ!」では14%台と低調だった回が3回あり、いずれも北朝鮮のミサイル発射という事件のあおりを受けたもの。ただその影響を考慮しても平均視聴率への影響は0.1%程度に留まることから、評判の良さほどには視聴率が上向いていないことになる。

部員たちが舞の実家であるねじ工場を訪れた場面には「大学にも工作室はある!」との反省会ツイートがあったものの、いいねは手で数えられる程度に過ぎなかった。©NHK

 なんとも不可解なこの数字。もしや視聴者が盛り上がっているほどに世間のほうは盛り上がっていないのではと、心配する「舞いあがれ!」ファンもいることだろう。だがその原因は別のところにあるというのだ。

 ここで「ちむどんどん」以前の作品における、第1回~第25回の平均視聴率を確認してみたい。2作前の「カムカムエヴリバディ」は16.1%、3作前の「おかえりモネ」は17.2%、そして4作前の「おちょやん」に至っては18.0%(厳密には17.95%)という高い数字となっており、実は「ちむどんどん」まで一直線で右肩下がりになっていたのである。

 すなわち下落する一方だった平均視聴率を食い止めたという意味で、「舞いあがれ!」はすでに一定の成功を収めていると言えるだろう。それに加えて「舞いあがれ!」では、作品の評判がいいからこそ、数字が伸び悩むというジレンマに陥っているとの指摘もあるというのだ。

「本作に関するツイートを追っていると《週末にまとめて見る》という人が少なくないのです。どうやら序盤の好調ぶりや、きっちりと練り込まれたストーリーに安心感を得た視聴者が、週末に一気見することでカタルシスを得るという鑑賞法を実践しているようですね。これが前作『ちむどんどん』だと週の前半に事件が発生し、それが数々の偶然や強引な手法を経て、金曜日にはなぜかあっさり解決するというワンパターンな展開に終始。それを一気見してストレスを溜めこむくらいなら、毎日ちょっとずつ見ては『#ちむどんどん反省会』をチェックしてストレスを解消するという鑑賞法が広まっていたのではないでしょうか」(テレビ誌ライター)

 今ではNHKが推しまくっているネット配信サービス「NHKプラス」のおかげで、いつでもどこでも一週間分の振り返り視聴が可能に。その便利さゆえに、毎日同じ時間に15分ずつちびちびと朝ドラを楽しむという習慣が薄れ、計75分のドラマを週1回楽しむという視聴法が定着しつつあるようだ。

 それを可能にしているのが、一気見に適した「出来栄えの良さ」というのは皮肉だろうか。もっとも当のNHKとしてはNHKプラスの利用者が増えてくれれば、日々の視聴率が少々伸び悩んだところで、結果オーライなのかもしれない。