【舞いあがれ!】朝ドラでは異例?「なにわバードマン」編では部員全員が主役だった!

 その後ろ姿に思わず涙ぐんでしまった視聴者も少なくなかったようだ。

 11月9日放送のNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」第28回では、人力飛行機のスワン号がついに琵琶湖の上空をフライト。残念ながら飛行距離の記録達成は叶わなかったものの、浪花大学の人力飛行機サークル「なにわバードマン」の部員たちは、自分たちの作ったスワン号が空を飛んだことに大きな喜びを感じていたようだ。

「放送終了後に番組の公式ツイッターでは、離陸をサポートした部員8人が岸壁に並ぶ後ろ姿の画像を掲載。視聴者からは《ありがとう!》《本気で泣いた》といったコメントが多数寄せられています。部員たちが左腕を突き上げている姿にマンガ『ワンピース』を想起する人も多く、昼過ぎの時点で7000件以上のいいねを集めるなど話題になっていますね」(テレビ誌ライター)

 なにわバードマンは全部で11人。湖岸に残った8人は、遠くに飛び去って行くスワン号の後ろ姿をいつまでも眺めていた。そして設計担当の刈谷(高杉真宙)と、前任パイロットの由良(吉谷彩子)はボートに乗り、ヒロインの岩倉舞(福原遥)が操縦するスワン号を追走。無線で指示を出しながら、最後は着水した舞を救助していた。

 舞が湖岸に戻ってくると、待ち受けていた8人は「岩倉ー! ようやった!」と大歓声で出迎え。部長の鶴田(足立英)が「岩倉、ありがとう!」と声をあげれば、プロペラ担当の玉本(細川岳)は「これで心置きなく引退できるわ」と絶叫。その言葉を受けて“永遠の3回生”こと7回生の空山(新名基浩)も、普段の物静かさとは打って変わった興奮した声で「うん! ありがとう!」と感謝の意を伝えたのだった。

 そんな部員たちにパイロットの舞は「一緒に空飛んでもろて、ホンマにありがとうございました」と大きく頭を下げていた。その言葉に<飛んだのはあなた一人でしょ?>と思った視聴者などほとんどいなかったはず。このフライトでスワン号が、部員11人全員の想いを乗せて飛んでいたことは、誰の目にも明らかだからだ。

 やがて部員たちは自然と円陣を組み、「俺たちなにわ、バードマーン!」と絶叫。その掛け声は10月27日の第19回にて、居酒屋で行われた決起集会でも発声されていた。その決起集会では舞や由良が一緒に叫ぶことはなかったが、今回は11人全員が声を合わせていたのである。

「これらのシーンや部員たちのオフショットからは、現在の『なにわバードマン編』では部員11人の全員が等しく主役であることがひしひしと伝わってきました。もちろん鶴田や刈谷といった重要人物の出番が多いのは否めないものの、他の部員たちも毎回のように画面に映り、それぞれ重要な役目を担っていることが視聴者にも実感できていたのです。誰一人として《名もなき部員》など存在せず、一人一人に何かしらの感情移入ができていました。このようにモブキャラを作ろうとしない作品は、朝ドラ全体を見回しても珍しいのではないでしょうか」(前出・テレビ誌ライター)

この後姿を見るだけで、誰が誰なのか分かるところが「なにわバードマン編」の特色だろう。トップ画像ともに©NHK

 たとえば前作の「ちむどんどん」で、ヒロインの暢子が勤めていたイタリア料理店の厨房スタッフ全員を覚えていた視聴者がどれほどいただろうか。前々作の「カムカムエヴリバディ」でも、ヒロインひなたが勤務する条映太秦映画村の職員は多くがモブキャラだった。3作前の「おかえりモネ」にて、ヒロインの百音が所属する気象情報会社「ウェザーエキスパーツ」のスタッフを一体どれだけ視聴者が認識していたのか。

 それが今回の「舞いあがれ!」では鶴田、刈谷、玉本、由良、空本といった主要キャラのみならず、プロペラ担当の西浦(永沼伊久也)、胴体担当の渥美(松尾鯉太郎)と佐伯(トラウデン都仁)、1年生部員の日下部(森田太鼓)と藤谷(山形匠)らの顔ぶれを、多くの視聴者がしっかりと認識していたはず。それぞれの果たす役割や、ヒロイン舞との関係性もしっかりと伝わっていたのである。

「他作品との違いは決して良し悪しの問題ではなく、『舞いあがれ!』が大学のサークルを舞台としているからこその現象かもしれません。ただ学生だった時に部活動やサークル活動に打ち込んでいた視聴者は、全員が主役である本作に自分の学生時代を投影できたのではないでしょうか。そんな一味違った楽しみ方を、このなにわバードマン編では味わえたと言えそうです」(前出・テレビ誌ライター)

 おそらく終わりが近づいていることは確実な、なにわバードマン編。部員たちとの別れに視聴者が悲しむなか、五島列島から東大阪に舞台が移ってもすんなりと物語に没入できたように、次なる舞台でもヒロインの舞と、舞を取り巻く人々に感情移入できることは間違いなさそうだ。