【舞いあがれ!】まさかの考証ミス?めぐみの「記憶違い」が浮き彫りにした脚本の妙とは!

 だから二つの描写には違いがあったのか。その細かすぎる演出には感心せざるを得なかったようだ。

 11月17日放送のNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」第34回では、ヒロイン岩倉舞(福原遥)の母親・めぐみ(永作博美)がかつて、祖母の祥子(高畑淳子)から結婚を猛反対された場面の回想シーンが描かれた。その内容に疑問を抱く視聴者もいたという。

 教師になるという夢を抱き、故郷の長崎・五島列島を出て、長崎市の大学に通っていためぐみ。その長崎でめぐみは将来の伴侶となる浩太(高橋克典)と出会っていた。ところが東大阪で町工場を営んでいた浩太の父親が急逝。浩太は勤めていた会社を辞め、町工場を継ぐことになったのである。

「回想シーンでは大学を辞めて東大阪に行くというめぐみに、祥子が猛反対。口論の末、『浩太さんと一緒に大阪で生きていくけん』と宣言しためぐみを、祥子は『なら勝手にせねぇ! 二度と帰ってこんでよか!』と突き放していました。これでめぐみは大学を中退し、町工場のおかみさんとなったのです」(テレビ誌ライター)

 その回想シーンに、一部の視聴者から疑問の声があがっていたという。同シーンの冒頭では1981年と示されていた。実家に飾られていた中学校の皆勤賞からめぐみが昭和36年度(1961年度)生まれであることが分かっており、1981年の段階で祥子が「めぐみやまだ二十歳の学生でな」と言っていたのも納得だ。

 一方で第8回では、小3の舞を祥子の家に預けて東大阪に戻っていためぐみが、「このごろ、14年前のことをよう思い出すねん」と語る場面があった。この時点で物語は1994年だったことから、14年前は1980年にあたる。

 その第8回ではめぐみが、祥子から結婚を反対された場面を思い返していた。第8回と第34回では同じ場面を振り返っているのだが、かたや1980年でかたや1981年と、1年だけながら時代が食い違っていたのである。これはもしや、「舞いあがれ!」ではほとんど見られないレアケースの“考証ミス”なのだろうか?

「おそらくですが、第8回でめぐみが『14年前』と振り返っていたのが彼女の勘違いであり、実際には13年前だったというのが真相でしょう。ここで注目したいのは、第8回と第34回では、同じ場面を回想しているにも関わらず、登場人物の台詞が微妙に異なっていること。第8回では祥子から『なら勝手にせねぇ!』と言われる直前に、めぐみが『勝手に決めつけんでよ。絶対、ちゃんとやってみせるけん』と語っており、第34回で祥子が回想していたシーンとは明らかに違っていたのです」(前出・テレビ誌ライター)

第8回当時には公式ツイッターでも「めぐみさんが祥子さんと仲たがいしたのは、14年前のことだそうです」と紹介していた。トップ画像ともに©NHK

 同じ場面を回想するなら、映像を使いまわしても問題はないはず。むしろ普通は同じ映像を使うことで、繰り返し効果を狙うものだろう。しかし人の記憶というのは、人それぞれに微妙に異なるものでもある。

 めぐみは祥子への反発から、自分が「勝手に決めつけんでよ!」と言ったものだと思っていた。それに対して祥子は、めぐみが自我を通したことへの驚きから、めぐみが「浩太さんと一緒に大阪で生きていくけん」と啖呵を切ったと記憶しているのではないだろうか。

「この違いはどちらが正しいとか間違っているではなく、人の記憶は立場によって異なることを示しているのでしょう。めぐみは13年前(1981年)の出来事を14年前と振り返っていましたが、めぐみにとっては1年余計にカウントしてしまうほど、遠い記憶になっているのかもしれません。その食い違いは決して“考証ミス”や“脚本の矛盾”などではなく、人の気持ちや記憶は揺れ動くものであるという現実を反映した演出だと受け止めるのが正解だと思われます」(前出・テレビ誌ライター)

 心の機微を細やかに反映した「舞いあがれ!」。だからこそめぐみと祥子が確執を経て、和解へと至った第34回の物語に、心打たれて涙を流す視聴者が続出していたのだろう。