琵琶湖の上を飛んでから約3週間、やっと巡ってきた初フライトなのに、視聴者はあまり感情移入できなかったようだ。
11月29日放送のNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」第42回では、航空学校でパイロットを目指すヒロインの岩倉舞(福原遥)が、初めて飛行機を操縦する様子が描かれた。だがその場面にさほど感動できなかったとの声が続出しているという。
航空学校の帯広キャンパスにて、いよいよフライト課程に進んだ舞。この日はついに実機に乗り込み、左側の機長席にてエンジン始動から離陸までのプロセスを自分でこなすこととなった。右側の副操縦士席に座る大河内教官(吉川晃司)からの指示を受けながら、ついに飛び立った舞。彼女の前には帯広の空と海が果てしなく広がっていたのである。
青い空と太平洋を見ながら、心の中で「…空、飛べた!」とつぶやいた舞。その表情には少し笑みが浮かび、目は涙で潤んでいた。彼女が自分の操縦で空を飛んだのは、11月9日放送の第28回で人力飛行機「スワン号」のパイロットとして琵琶湖の上空を飛んで以来だ。
だが、そんなクライマックスシーンにも関わらず、視聴者からは舞の初フライトに感動したという声がさほどあがっていないという。それは一体どうしたことなのか。
「主な理由は二つあります。一つは前週からの航空学校編が視聴者に不評なこと。思慮深くて賢い学生だった舞が、航空学校に入学した途端におっちょこちょいでできない子にキャラ変してしまい、物語のテイストもドタバタ活劇風に変わってしまったことで、観る側の気持ちがすっかり白けてしまいました。今週に入ってからはテロップや画面分割といった過剰な演出こそ影を潜めたものの、かつての五島編や人力飛行機編のような細やかな演出からは未だ程遠く、離れてしまった視聴者の思い入れを取り戻すには至っていないのです」(テレビ誌ライター)
そしてもう一つの理由は、フライト課程の描き方が不十分なことだ。今回の初フライトに際しては視聴者から<いきなり自分で操縦するの?>との疑問が続出。自動車免許なら最初は指導員の横で運転を見学し、次いで仮免を取得して教習場内を運転するもの。それが本作ではいきなり実機を操縦しているのだから、視聴者が驚くのも当然だろう。
結論から言うと作中の描写は決して間違っていない。初フライトでは学生が左側の機長席に座って、交代しながら離陸から着陸までの全行程を担当していく。しかし今回は、初フライトに至るまでの過程がかなり端折られていたことから、唐突感が否めなかったのも無理はないというのだ。
「作中では学生が、飛行前のプロシージャーだけを学んでいたように見えました。しかし実際には『イメージフライト』といって、操縦の手順すべてを事前に確認する作業が大切なのです。どのように離陸するか、上空でどういう操作を行うか、そしてどう着陸するかを事前にすべてイメージフライトで確認しておくもの。そこをきっちり描いておけば、視聴者としても初フライトに向けての緊張を高められたはずだと思うと、残念でなりません。それは脚本の力不足なのか、それとも演出の問題なのか。ともあれ今回の初フライトに唐突感があったことは否めませんね」(飛行機に詳しいトラベルライター)
イメージフライトは初フライトに限らず、フライト実習のたびに行われるもの。フライト後にはイメージフライトと実際のフライトがどう違っていたのかを確認する作業も重要だ。ところが今回は、フライト後の確認作業も省略されており、どうにもフライト実習が雑に描かれていたとの印象がぬぐえないのである。
人力飛行機サークル編の時には、記録飛行に向けてパイロットの舞が訓練を重ねていく様子を丹念に描き、それが初フライトを感動的なものにしていた。そういった実績がありながら、航空学校編では舞の本分である訓練がさほど細かく描写されていないのは、なんとも謎だ。これも脚本家が交代したことによる弊害の表れなのだろうか。
本作では、モデルとなった航空大学校で入念な取材を行ってきたとアピール。同校の帯広キャンパスで現地ロケを行っており、舞がプリフライトチェックを行っていた機材も航空大学校が所有する訓練機だった。しかしその取材が、訓練課程の描写にはさほど活かされていないのではないか。プロシージャーを読み上げる場面だけでは、視聴者としても「フライトに向けての訓練」という実感を抱きづらいもの。ここはぜひ、今後のフライト実習がより精緻に描かれることに期待したいところだろう。