この人の存在が航空学校編を救っているのかもしれない。
12月2日放送のNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」第45回では、ラストシーンでヒロインの岩倉舞(福原遥)と同期の柏木学生(目黒蓮)が見つめあうことに。すわ恋愛ドラマの始まりかと視聴者が警戒心を高めるなか、なかにはこの回で描かれた「伏線回収」に言及する声もあったという。
ここまでの「五島列島編」や「人力飛行機編」などを経て、いよいよ舞が旅客機パイロットを目指して航空学校で奮闘している本作。だが前週の「航空学校編」突入から脚本家が変わった影響なのか、物語のテイストやヒロイン舞のキャラが変わってしまったと嘆く声が噴出している。
「第7週までは出演者同士の細やかな心の動きが、巧みなセリフ回しで表現されていました。それぞれのキャラも繊細に描かれており、視聴者はヒロインの舞のみならず、様々な登場人物に感情移入。人力飛行機サークル・なにわバードマンの由良先輩(吉谷彩子)や、五島列島でカフェを営む山中さくら(長濱ねる)など、第二第三のヒロインにも視聴者は魅入られていたものです」(テレビ誌ライター)
それが航空学校編になった途端、物語はドタバタ活劇風に方向転換。「吉本新喜劇化」と評するメディアもあるなど、まるで別の作品になったかのような内容に序盤からの視聴者は置いてきぼり状態だ。
舞のルームメートで元商社ウーマンの矢野倫子(山崎紘菜)も、文句なしの美人かつ凛とした態度から、それこそ由良先輩のような支持を集めてもおかしくないはず。しかし彼女が話題になる機会は少なく、これではせっかくの朝ドラ初出演を果たした山崎も報われないというものではないか。
そんな状況で“救世主”との呼び声も高いのが、鬼教官のサンダー大河内こと大河内守(吉川晃司)。当初の設定では口調もワイルドなキャラクターだったものの、吉川自身のアイデアにより、物腰の柔らかい丁寧な人物に変更。その新設定は功を奏している様子だ。
その大河内教官が今回、舞に語った言葉が、実はそれまでの物語にちりばめられた伏線を回収していたのでは、との指摘もささやかれているという。同期の柏木がロストポジション(現在地を見失うこと)に苦しんでいることについて、舞は大河内教官に質問。すると大河内はこんな言葉を返していた。
大河内「自分の何が問題だったのか、向き合うことを恐れているうちは、何も解決できない。それにすべてを一人で抱え込むことが正しいと考えているとすれば、彼はパイロットの本質を理解していない」
この言葉は柏木はもちろん、舞たち同期生全員に向けた教訓にもなっていることだろう。それに加えて、梅津貴司(赤楚衛二)や望月久留美(山下美月)ら、舞の幼馴染についても言い表しているというのである。
「この言葉に、会社を辞めて五島に向かった貴司や、音信不通だった母親に会いに行った久留美のことを思い出した視聴者もいたことでしょう。貴司は自分のやりたいことと現実の仕事とのギャップに苦しみ、一方で久留美は両親の離婚に始まる家庭問題に苦しんでいました。しかし二人は自分でその解決策を考え、さらには舞を含めた幼馴染からの助言や影響を受けて、次なる一歩を踏み出していたのです」(前出・テレビ誌ライター)
すなわち、柏木が「問題に向き合うことを恐れ、すべてを一人で抱え込む」現状に苦しんでいるのに対し、舞・貴司・久留美の3人は問題にしっかりと向き合い、一人で抱え込まずに周りの助けを得て、難局を打開していた。そんな対比が、大河内の言葉には秘められていたのではないだろうか。
「惜しむらくは第9週で描かれた物語では、大河内の言葉が柏木など航空学校の学生だけに向けられているように捉えられること。大河内は柏木らに言及しただけではなく、多くの若者が抱える普遍的な苦しみについて語ったに違いありません。自衛隊出身の鬼教官という設定は単なる厳しさのメタファーではなく、若者たちを導いていく立場を表しているはず。次週以降はそこをもう少し丁寧に描いてほしいものです」(前出・テレビ誌ライター)
第9週は舞と航空学校の物語にほとんどの時間が割かれ、貴司や久留美はチョイ役的な出演にとどまっていた。しかし同い年の幼馴染3人はそれぞれの場所で、それぞれの青春を送っている。そんな姿をもっと見せてほしいと、視聴者も願っているのではないだろうか。