【舞いあがれ!】浩太の工場で受注数が激減!その原因はリーマンショックだけではなかった?

 やはりリーマンショックは描かれた! だがそれ以外にも原因があったようだ。

 12月19日放送のNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」第56回では、ヒロイン岩倉舞(福原遥)の実家である部品工場の株式会社IWAKURAが、苦境に直面する様子が描かれた。

 舞の父親・浩太が社長を務める同社では、銀行から3億円を借り入れて新工場を設立。名神プレステックというメーカーから自動車向け部品を受注しており、その数量はボルトだけでも毎月100万個を超えていた。単価10円でも月に1000万円超となる大口顧客だ。

 ところが名神から発注された10月分は、22万個を予定していた部品が8万個余りに減るなど、4割ほどに激減。慌てた浩太が名神に問い合わせるも発注数に誤りはなく、再来月以降に復活するかどうかも分からないという。

「ナレーションでは米国の投資銀行リーマン・ブラザーズが破綻したことに触れ、『その影響は東大阪の町工場にまで及んだのです』と説明。視聴者が懸念していた2008年のリーマンショックが、作中にも反映される形となりました。ただその描写にいささか不自然な点も見られたのです」(週刊誌記者)

 リーマン・ブラザーズが経営破綻したのは9月15日のこと。一方、作中で名神が10月分の部品を発注してきたのは9月17日で、日米の時差を考えるとほぼ翌日だ。これはさすがに急すぎるのではないだろうか。

すっかり受注が減った12月には従業員に一律3万円しかボーナスを支給できない様子が描かれた。トップ画像ともに©NHK

 ここで注目したいのは、リーマンショックが発生した2008年の自動車生産台数だ。この年、9月の段階では生産台数への影響は見られず、10月になってからトヨタの国内生産は17.0%減、日産では11.2%減となっていた。

 だがホンダでは4.6%増、マツダでは2.0%増、そして三菱自動車では6.3%増という結果に。ダイハツと富士重工(現・スバル)も10月の国内生産は前年比増となっており、微減のスズキも含めた8社合計では6.7%減に留まっていたのである。

「米国ではリーマンショックの発生直後から新車販売台数が落ち込み、日本の自動車メーカーも海外生産に関しては軒並み数字を落としていました。一方で日本の国内市場ではリーマンショックの影響が少し遅れて発生し、10月時点ではまださほどの影響はなかったのです。それなのに『舞いあがれ!』の作中では名神プレステックが9月17日発注分から、いきなり発注数を6割減。いくらなんでもリーマンの破綻2日後にこの急減は不自然に過ぎるのではないでしょうか」(週刊誌記者)

 ここで気になってくるのが、前回の第55回で交わされた会話だ。新工場が立ち上がった2007年12月、浩太が名神プレステックに営業に行こうとすると、経理総務課長の古川(中村靖日)が「社長、ちゃんと名神さんの売り上げ動向も聞いてきてくださいね」と念押ししていたのである。

 だがその当時、リーマンショックなど影も形もなく、景気はむしろ世界的に上向いていた。2008年前期の自動車生産台数も、ホンダを除く7社が前年比増を記録。その状況で経理総務課長が名神プレステックの売り上げ動向を気にするのは、いかにも不自然な話なのである。

「どうやら名神プレステックはリーマンショック以前から、経営が思わしくなかった恐れがあります。もしそうであれば、リーマンショックに耐えられたとしても、IWAKURAが名神からの受注に頼るのは危険なはず。取引先の拡大や業務の多角化を進め、大口顧客の売り上げに依存した経営を改める必要があるでしょう」(前出・週刊誌記者)

 もとより社長の浩太には飛行機の部品を作りたいという夢がある。リーマンショックを奇貨として多角化を進め、ついには飛行機部品メーカーとの取引を獲得するという成長物語の第一歩が、いま描かれているのかもしれない。