「この時代、もうメールはあったでしょ?」…そんな疑問は野暮というものだろう。
12月20日放送のNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」第57回では、航空学校を卒業したヒロインの岩倉舞(福原遥)に、いきなりの試練が与えられた。就職が内定していたハカタエアラインから、入社を1年延期するとの通知が届いたもの。
時代は2009年1月を迎えており、前年9月に発生したリーマンショックの影響が世界経済に波及。現実世界では日本航空と全日空で業績が大幅に悪化し、なかでも日本航空は赤字に転落。2010年1月にはついに経営破綻に至っていた。
4月から航空会社に勤めるはずだった舞も、1年間の浪人を余儀なくされることに。そのタイミングで長崎・五島に住む祖母の祥子(高畑淳子)が足を怪我してしまい、舞は手伝いに行くこととなった。その展開に、視聴者はほっと胸を撫でおろしているというのである。
「本作では第7週までの五島編やなにわバードマン編が視聴者から大きな支持を得ていたのに対し、第8~11週の航空学校編ではドタバタ活劇風の演出と、不自然な恋バナ要素が大不評。一気に視聴者の気持ちが離れてしまいました。それが前日の第56回でやっと舞が航空学校を卒業し、次の段階に進むことに。今回は『航空学校編との決別』が明確に描かれており、視聴者を安心させているのです」(テレビ誌ライター)
なにより視聴者を喜ばせたのは、なにわバードマン編の主要キャラだった由良先輩(吉谷彩子)と再会したシーンだ。そもそも舞が航空学校を目指したのは、由良から航空学校の存在を聞いたから。その由良は入学要件に身長が足りなかったが、今回は「私の身長でもオーケーと言ってくれるアメリカで訓練受けてパイロットになる」との想いを口にしていた。
話の流れ的に、由良が今回限りのスポット出演である可能性は高い。それでも彼女がなにわバードマンでの思い出に触れてくれたことには、視聴者が航空学校編で感じていたモヤモヤ感を一気に引きはがしてくれる効果があったはずだ。
その由良に舞は、航空学校での訓練について「一歩間違えたらって思うと命に関わるんで、気ぃ抜けませんでした」と回顧していた。その言葉に視聴者からは<そんなシーンあったっけ!?>と疑問の声が続出。だがこのセリフには、深い意味が込められているとの見方もあるという。
「当初のシナリオでは、航空学校編にそのような緊迫した描写が多く入る予定だったのかもしれません。ところが実際は学園ものの群像劇に終始し、肝心のフライトでも緊張感はあまり感じられませんでした。それゆえ今回、舞に『命に関わる』というセリフを語らせたのは、視聴者に対して《そういった筋書きだったと思ってほしい》という制作側のメッセージだった可能性もあります」(前出・テレビ誌ライター)
見方を変えれば、このセリフは航空学校編に対する決別の言葉だったのかもしれない。そう考えれば、舞の不自然な行動にも説明がつくというのである。
航空学校で同期の柏木(目黒蓮)と恋仲になった舞。帯広キャンパスから宮崎本校に戻る間に、柏木を自宅に連れてくるというトンデモ行動が視聴者の不興を買っていたものだ。
その柏木は前回の放送で、サンフランシスコに語学留学に行くと宣言。どうやらそのまま「倉庫入り」したようで、今回は舞が電話をかけても出ないどころか、折り返しの連絡さえないという有様だった。
「視聴者からは《2009年ならメールがあるでしょ?》との疑問があがることに。たしかにその通りなのですが、航空学校編が過ぎ去った今、もはや柏木は本作の物語に必要のない人物となりました。だからこそメールさえ交わすことなく、このままフェードアウトさせるつもりなのでしょう。そうやって半ば強引ながら航空学校編を封印し、次のステップへと切り替えているのだと信じたいですね」(前出・テレビ誌ライター)
来年3月いっぱいまで放送が続くとして、この「舞いあがれ!」はまだ全体の半分も消化していないはず。残り3カ月強で視聴者を感動させ続けるためにも、航空学校編はとっとと過去のエピソードとして封じ込めたい。そんな制作陣の意図が感じられる第57回だったのではないだろうか。