こういう作りこみを見たかったんだよ! 視聴者からそんな声があがっていたようだ。
12月21日放送のNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」第58回では、ヒロインの岩倉舞(福原遥)が長崎・五島に住む祖母・祥子(高畑淳子)の家に滞在する様子が描かれた。そこで舞が見せたイメージトレーニングのシーンに、細かすぎる描写が隠されていたという。
舞は2008年12月に航空学校を卒業し、パイロット候補生としてハカタエアラインへの入社が内定していた。だが折からのリーマンショックによる世界経済悪化の影響を受け、入社が1年延期されることに。そのタイミングで祥子が脚をケガしたこともあり、五島で祖母の手伝いをすることとなった。
しかしパイロットを目指す舞にとって1年間の浪人生活はなかなか厳しいはず。自動車免許と違って航空機の免許では、ちょっと練習で操縦してみるというわけにもいかず、航空学校で学んだ知識や経験も時と共に衰えかねない。それをカバーすべく舞は五島滞在中も、航空学校の在学時と同様にイメージトレーニングを重ねていた。
舞は「ランウェイ16、クリアード・トゥ・テイクオフ」から始まる離陸時のプロシージャを暗唱。実際に操縦桿やスロットルレバーを操作する動作をしつつ、「V1、V2、VR!」と口に出しながら操縦桿を引いていた。そのプロシージャに感心する航空マニアも少なくなかったという。
舞が口にしていたランウェイ16とは、滑走路が磁方位160度の方向を向いていること。ただ舞がフライト課程を学んでいた帯広空港はランウェイ17/35だったし、作中では省略されていたが宮崎空港は09/27、そして仙台空港は09/27と12/30の2本で、ランウェイ16に相当する空港では訓練していないのである。
「日本国内の空港でランウェイ16を備えるのは旭川、成田、羽田、名古屋小牧、福岡、鹿児島の6カ所だけ。それゆえ舞が想定していたのは、ハカタエアラインが本拠地とする福岡空港に違いありません。彼女は入社後の訓練をいまからイメージしていたというわけです」(飛行機に詳しいトラベルライター)
航空マニアなら思わずうなってしまうディテールの細かさは、さすがは桑原亮子氏の脚本というべきか。前週までの「航空学校編」では嶋田うれ葉氏と佃良太氏が脚本を務めるも、ドタバタ活劇風の内容には視聴者からの厳しい批判が殺到していたものだ。
それが今週からは、第7週までを担当していた桑原氏に戻り、物語の内容も軌道修正されるとの期待が高まっていた。今回のイメージトレーニングにはさっそく、桑原氏らしい細かい気遣いが表れていたのではないだろうか。
しかも舞のイメトレではもう一つ、小憎い要素が隠されていたという。それは舞が「VR」(機首上げ速度)を宣言し、操縦桿を引いて離陸する際の動きだ。
「その際、操縦桿を握る手を前方に伸ばしていたことに気付いた人も多いはず。帯広のフライト課程で搭乗していた『シーラスSR22』ではジョイスティックのようなサイドヨーク式の操縦桿を採用していましたが、訓練の仕上げとなる仙台では双発機の『ビーチクラフトC90Aキングエア』を操縦。同型機は自動車のハンドルにも似たベーシックな形状の操縦桿となっており、舞はその動作を再現していたのです」(前出・トラベルライター)
ハカタエアラインは架空の航空会社だが、福岡から五島への直行便を持っているとのことで、その路線はプロペラ機の可能性が高い。日本国内で運行されているプロペラ機の旅客機はハンドルタイプの操縦桿を装備していることから、舞は入社後のフライトをイメージしていたのかもしれない。
このように、いくつもの「リアリティ」を忍ばせていた今回のイメトレ。そのシーンを見ただけでも、これからの物語に対する期待が高まるのではないだろうか。