【舞いあがれ!】めぐみは会社を畳まなくて済む?あえて生命保険の話題を持ち出さないワケとは

 中小企業の経営者は、この展開に違和感を抱いていたのではないだろうか。

 1月10日放送のNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」第68回では冒頭、夫を失った岩倉めぐみ(永作博美)が社長代行を引き継ぐ書類にサインをする姿が描かれた。

 前週、町工場の株式会社IWAKURAを営む夫の浩太(高橋克典)が心筋梗塞で急逝。同社は前年に新工場を設立して業務を拡大したばかりで、信用金庫から3億円を借り入れていた。しかしリーマンショックの影響で業績は悪化。そこにきて社長の浩太が亡くなったことにより、会社は存亡の危機に立たされたのである。

 今回、めぐみは会社を畳むと決断。全社集会では会社を丸ごと引き受けてくれるところを探すと宣言していた。そうすればIWAKURAは廃業となるも、従業員の生活は守れるとの判断だ。だがこの展開はいささか不自然だというのである。

「信用金庫側は前回、すぐに会社を畳めば借入金は全額返済できると迫っていました。しかし本来であれば浩太が亡くなったことで生命保険の保険金が支払われ、融資はチャラになるはずです。ツイッター上でも《保険金は?》《生命保険、入ってないの?》といった声が続出。作中で誰も保険の話をしないことに疑問を感じる人が少なくなかったのです」(週刊誌記者)

従業員に向けて会社を畳む決断を伝えためぐみ。トップ画像ともに©NHK

 中小企業が融資を受ける際には、団体信用生命保険に加入するのが一般的。経営者が連帯保証人となり、経営者が亡くなった際の保険金で融資を回収できるという仕組みだ。信用金庫側にとっては不慮の事故や病気による回収不能を防ぐことができ、融資と生命保険がセットというのはごく普通のことだと言える。

 12月26日放送の第61回では浩太が胃潰瘍で入院するも、その時期にはすでに融資から半年以上が経過していた。この時点での発病は告知義務違反に該当することもなく、浩太の生命保険は満額支払われる可能性が高いはず。それなのになぜ作中では、浩太を失ったIWAKURAが存続の危機に立たされているのだろうか。

「あえて生命保険の件をスルーすることで、IWAKURAの経営危機を際立たせているのではないでしょうか。中小企業の融資における生命保険の加入はごく普通の手段ではあるものの、世間一般に知られているわけではなく、そこを描かなくても疑問に感じる視聴者は少ないという計算があったのかもしれません。融資返済を迫られためぐみがIWAKURAを畳むという苦渋の決断を下す展開のほうが、ドラマチックなのは確実ですしね」(前出・週刊誌記者)

 ドラマにはある程度のリアリティが求められるものの、多くの視聴者が知らないであろうところまで正確に描くのは、かえって興ざめになりかねない。むしろ、借入金返済のために会社を畳む道を選ぶほうが、起死回生策が飛び出る展開にも持っていきやすいのだろう。

 ここは投資家の悠人(横山裕)が、父親を失った実家の会社を救う秘策を編み出す姿に期待が高まるところではないだろうか。