1月9日にスタートしたNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」。いかにも三谷幸喜らしい脚本では、主人公・北条義時(小栗旬)の父親である時政(坂東彌十郎)が「最後は首ちょんぱじゃねえかぁ!」と現代語丸出しの台詞を口にするなど、従来の大河ドラマとは一味も二味も異なるコミカルな演出が特徴だ。
なかでも第一話の見どころだったのが、鎌倉幕府を興す源頼朝(大泉洋)に一目惚れした北条政子(小池栄子)の振る舞いだ。美人だが気性が荒く、まだどこにも嫁いでいない政子のことを頼朝も気にかかっている様子。そんな頼朝に政子があからさまにラブラブな態度で迫る姿には視聴者からも<面白すぎる!><政子が全部持っていった>と絶賛の声が多数あがっているようだ。
そんな小池栄子を巡って、一部の歴史好きからは<史実に反する!>との指摘が出ているという。
「政子が初めて頼朝に挨拶し、名前を訊ねられた際には『北条時政の娘、政子でございます』と答えていました。このやり取り、とくに不自然さは感じられませんが、実はこれこそが史実に反しているのです。というのも『北条政子』という名前は後世になってから彼女を特定するために付けられた歴史用語のようなもの。彼女が自分自身を『政子』と名乗ったことや、周りから『政子』と呼ばれていたことはないというのが史実となっています」(日本史に詳しいライター)
政子という名前は夫となった源頼朝の死後、朝廷が彼女に従三位という位を授けた際に公文書に記載する“名前”が必要だったことから、<北条時政の娘>という意味で付けられたもの。頼朝の生前には「政子」という名前そのものが存在していなかったのである。
政子自身は幼いころ、万寿や朝日といった名前だったようだ(諸説あり)。また当時は武家の娘を姫や大姫(長女の意)といった肩書きで呼ぶのが一般的で、近しい者以外は実際の名前を知らないのもごく普通のことだったという。
「ただ、鎌倉時代の人間関係や呼称をそのまま現代に当てはめてしまうと、物語が分かりづらくなってしまうのは致し方ないところ。それに『北条政子』の名前が現代では広く知られていることもあり、ドラマの作中では政子という呼称に固定したほうが視聴者にも分かりやすいのは明らかです。視聴者としては、当時その名前は存在していなかったという史実を豆知識として知っておけば十分ではないでしょうか」(前出・ライター)
そもそも時代劇にお歯黒の女性が登場しないなど、ドラマが史実を忠実に描いていないのは当然のこと。この「鎌倉殿の13人」においても鎌倉時代にはあり得なかった言葉遣いをはじめ、ドラマとしてのエンターテイメント性を楽しみたいところではないだろうか。