これが「背中で語る」ということか。その場面に多くの視聴者が涙したことだろう。
1月25日放送のNHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」第59話では、トランペットを吹けない奇病を患った錠一郎(オダギリジョー)が、一度は結婚を約束したるい(深津絵里)に対して「お願いや、もう開放してくれ」と言い放つことに。自らを心配してくれるるいを拒絶し、突き放したのだった。
住み込みで働く竹村クリーニング店に戻り、ちゃぶ台で正座して佇むるい。心配したおかみさん(濱田マリ)がお茶を出して「大丈夫か?」と訊ねると、るいは自分の想いを吐き出していった。ここからの一人語りが圧巻だったのである。
「おもむろに『ちょっと怖かったんです。家庭を持つ、いうことが』と話し始めたるいは、『母に捨てられて、父の顔も見たことがなくて』と告白。それまでるいの顔を見つめていたおかみさんがふと目線を外したのは、るいの口から両親について聞いたのが初めてだったからなのかもしれません」(テレビ誌ライター)
続けてるいは「そんな私が家族を作ることなんてほんまにできるんやろかって。ずっと不安やったんです。そやから、これでよかったんです」との想いを吐露していた。
「1分40秒にもわたる長回しのあいだ、カメラはとつとつと語るるいの背中だけを映していました。表情が見えないにもかかわらず、視聴者にはるいの気持ちがありありと伝わってきたのです。彼女の背中には、これまで背負ってきた人生の重さが映っていたに違いありません。そんな背中語りの長回しシーンは、朝ドラ史上に語り継がれる名場面となっていたのではないでしょうか」(前出・テレビ誌ライター)
脚本の巧みさに加え、カメラワークでも視聴者を引き込んでいる「カムカムエヴリバディ」。4月8日に最終回を迎えることが発表されたなか、いつまでもこの物語が続いてほしいと願う視聴者も少なくないことだろう。