そのラストシーンに、母親・るいの姿を重ね合わせた視聴者も多かったことだろう。
2月3日放送のNHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」第66話では、小学四年生で時代劇好きのヒロイン・ひなた(新津ちせ)が、俳優・二代目桃山剣之介(尾上菊之助)のサイン会に行く姿が描かれた。
普段はブラウスに吊りスカートといういかにも小学生らしい服装のひなただが、この日ばかりは黄色いワンピースでおめかし。差し入れとして母親のるい(深津絵里)が営む「回転焼 大月」の回転焼きを「これ、ウチの店の回転焼きです。どうぞ!」といってプレゼントし、剣之介の「いただきますよ」という言葉にすっかり感動していた様子だった。
念願のサイン会にすっかり舞い上がっていたひなただったが、そんな彼女が自分と友達の違いに表情を曇らせる場面もあったという。
「お正月に友人たちと羽子板を楽しんでいたひなたは、剣之介のサイン会に行こうと提案。同級生の一子と小夜子は一緒に行くと言ってくれましたが、ひなたは1500円という参加料金の高さを心配します。すると一子は『おばあちゃんにもろたお年玉で行ける!』と笑顔に。小夜子も同じように答えると、ひなたは困惑した顔を見せていました。というのもひなたの祖母・安子は、まだ小学校に入ったばかりだった娘のるいを置いて渡米。祖父の稔は戦争で亡くなっていたので、ひなたは祖父母の顔を知らないままに育っていたのです」(テレビ誌ライター)
ひなたがヒロインの「ひなた編」では舞台が現代となり、母親・るいの過去はほとんど語られていなかった。それが今回、「母親に捨てられた娘」というるいの心の傷が、ひなたの人生にも影を落としていたのである。
その一方で今回のラストシーンでは、るいが背負っている傷を、ひなたが克服していくであろう場面が描かれていたという。
「サイン会からの帰り道、ひなたはキーホルダーを落とした男の子に『落ちましたよ』と声を掛けます。振り返ったその子は西洋人の顔つきをした美少年で、どうやらひなたは一目ぼれした様子。その時、一陣の風が吹き、ひなたの前髪がひるがえりました。そのシーンに、母親・るいが初デートした場面を思い出した視聴者もいたのではないでしょうか」(前出・テレビ誌ライター)
母親のるいは12月28日放送の第42話で、弁護士の卵である春彦との初デートで映画を観に行くことに。その帰り道、春彦から食事に誘われて一度は承諾するも、突風で前髪が舞い上がり、子どものころから気にしていた額の傷を見られてしまっていた。
完治することがないという額の傷はるいが子供の時、母親・安子の自転車が引くリヤカーに乗っていた際に、オート三輪との自動車事故で負ったもの。それ以来、るいにとって額の傷は身体と心の両方に刻まれた辛い思い出となっていたのである。
「そんなるいに対し、ひなたの額はキレイなもの。これは彼女がるいとは対照的に、母親と良好な関係を築いていることの象徴でもあります。そんなひなたが初めて異性を意識した際に風が前髪を舞い上げたシーンは、ひなたがるいと違った人生を送る未来を示唆しているのではないでしょうか」(前出・テレビ誌ライター)
祖母の安子、そして母親のるいは男性との付き合いを通して、苦い経験を送ってきた。それを知っている視聴者としては、孫のひなたにはぜひ良い彼氏を見つけて幸せになってほしいと願っていることだろう。
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