【カムカムエヴリバディ】ひなたが背中で語った1分間が示した「やはり、るいの娘」という姿

 この母にしてこの娘あり。親子の絆はこうやって紡がれていくようだ。

 2月9日放送のNHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」第70話では、ヒロインの小学5年生・大月ひなた(新津ちせ)が失恋の痛手に涙する場面があった。

 映画村で一目惚れした外国人の少年ビリーがある日、ひなたが一人で留守番をしていた「回転焼 大月」を訪れることに。彼は以前食べた味が忘れられず、アメリカに帰国する直前に回転焼きを買いに来たのだった。

 そんなビリーと英語で会話をしたいと「ラジオ英語会話」を聴き始めていたひなただったが、生来の飽き性が災いしてわずか一週間で挫折。この日もビリーの言葉はなんとなく理解できたものの、自分から英語を話すことはできず、なんら意思疎通できぬままにビリーは店を後にしたのだった。

「自責の念にかられたひなたはすっかり落ち込んでしまうことに。帰ってきた母親のるい(深津絵里)が話しかけてもろくに反応せず、しまいには回転焼きにまで八つ当たりして『いらんって言うてるやん!』と父親・錠一郎(オダギリジョー)の手を跳ねのけてしまいました。これには温厚な錠一郎も珍しく『ひなた! いつからそんな子になったんや』と激昂。いたたまれなくなったひなたは家を飛び出し、河原にたたずんでいたのです」(テレビ誌ライター)

 自分へのいら立ちを、両親にぶつけてしまったひなた。ちゃぶ台に正座していた彼女は「いらん、もう飽きた」とおやつの回転焼きを拒否していたが、それは回転焼きを買いに来たビリーに上手く対応できなかった自分に対する後悔が反映された態度だった。

プチ家出から戻ってきたひなたは、父・錠一郎の背中越しに頭を下げていた。ドラマ「カムカムエヴリバディ」公式ツイッター(@asadora_bk_nhk)より。

 そして両親の心配をあだで返すことになったひなただが、まだ小五の少女にとっては致し方ない面もあっただろう。そんなひなたの心情を描いた場面に、本作のファンからはこんな驚きの声があがっていたというのである。

「このシーンでは約1分にわたり、正座するひなたを背中側から映し続けていました。視聴者にはひなたの様子を伺うるいと錠一郎の顔が見えるという構図です。その場面に、1月25日放送の第49話を思い出した人が続出。というのも第49話では、一度は結婚を約束した錠一郎から『お願いや、もう開放してくれ』と告げられたるいが、その苦しさをクリーニング店のおばさん(濱田マリ)に向けてとつとつと語る場面がありました。そこでもカメラは1分40秒にわたって、ちゃぶ台の前にて背中で語るるいを映し続けていたのです」(前出・テレビ誌ライター)

 12年の時を経て母親のるいと娘のひなたは、恋敗れた苦しみを同じように背中で語っていた。その対比は母娘の結びつきを強く、視聴者に印象付けたのである。

 その一方で、るいとひなたの苦しみには大きく違う面もあった。るいは幼い時に母に捨てられ、戦死した父親の顔を見たこともないと吐露。そんな自分に家族を作ることができるのかとの不安を抱いていた。それに対してひなたは自分自身の飽き性が原因で恋に破れており、失恋の原因が自分の外側にあるか、それとも内側にあるのかという対比を描いていたのである。

「昭和19年生まれのるいは、人生に戦争が大きな影を落としていた世代。それに対して昭和40年生まれのひなたは、経済白書に『もはや戦後ではない』と書かれてから9年後という平和な時代に生まれた世代です。今回のひなたが背中で語ったシーンには、そんな時代の移り変わりが込められていたのに加え、たとえ時代が変わっても人は同じように悩むという人間の真理もまた描かれていたのではないでしょうか」(前出・テレビ誌ライター)

 昭和39年には挫折を乗り越えて錠一郎との幸せな夫婦生活をつかんだ母親のるい。昭和51年には娘のひなたも、ぜひ幸せになってほしいと視聴者は願っていることだろう。