ここぞとばかりに、秘蔵の品を蔵出ししてきたのかもしれない。
8月10日放送のNHK連続テレビ小説「ちむどんどん」第88回では、青柳和彦(宮沢氷魚)の母親である重子(鈴木保奈美)が、比嘉歌子(上白石萌歌)から送られてきたカセットテープを再生する様子が描かれた。
和彦は沖縄出身のヒロイン比嘉暢子(黒島結菜)と結婚の約束をするも、母親の重子は家柄の違いを理由に猛反対。かたくなな重子を説得すべく、沖縄から姉の良子(川口春奈)が上京し、母親の優子(仲間由紀恵)が手作りした沖縄風油味噌のアンダンスーなどを手土産に渡していた。そのなかに1本のカセットテープも含まれていたのである。
妹の歌子は民謡歌手になるのが夢で、三線と歌を猛特訓中。どうやらその歌を重子へのプレゼントにした様子だ。お手伝いさんの波子(円城寺あや)がテープの存在に気付くと、重子は「はぁ、嫌になっちゃった」とこぼしつつ、そのテープを再生し始めた。そのシーンに一部のオーディオマニアが大興奮していたという。
「重子がテープを入れたカセットデッキには『10chnicos』との銘板が貼られており、どうやら松下電器産業(現・パナソニック)が展開するオーディオブランド『Technics』(テクニクス)をもじっている様子。しかもそのカセットデッキは、昭和51年(1976年)に初代モデルが発売された高級カセットデッキの『RS-275CU』そのものだったのです」(IT系ライター)
その「RS-275CU」は当時の価格で5万9800円、現在なら10数万円にも相当する高級機だ。発売時期から考えて、和彦が一人暮らしを始めてから購入したはずで、果たして重子がそんな高級オーディオに興味を持っていたのかどうかは疑問なところ。もっとも裕福な家とあって、出入りの業者が高級機種を納品したのかもしれない。
そんな年代物の「RS-275CU」だが、注目すべきは作中のカセットデッキが実機であること。重子が再生ボタンを押すとカセットテープが回り始め、音量を表すアナログメーター(VUメーター)がビビッドに反応していたのである。
またストップボタンを押すとメーターもテープも動きを止めていたことから、今でも稼働できる状態にあることは間違いないようだ。
「年代物のオーディオ機器と言えば、前作の『カムカムエヴリバディ』では戦前の真空管ラジオを手始めに、昭和20年代や30年代それぞれのラジオが登場していたもの。テレビに関しても初めて購入した14インチ程度の小さなものから、その後は20インチ程度の少し大きな製品に買い替えるなど、時代の移り変わりを表していました。この『ちむどんどん』では様々な時代考証ミスが指摘されているものの、そこはNHKとあって、オーディオ機器に関しては妥協を許さないスタッフがいたのでしょう。ちゃんと時代に即した製品が画面に登場したのは、今回が初めてかもしれません」(テレビ誌ライター)
本作では昭和50年代になっても年代物のオート三輪が登場するなど、時代考証の甘さが目立っていたもの。それが今回ばかりはマニアも唸る逸品が登場した形だ。
なお「RS-275CU」は純粋なカセットデッキであり、アンプやスピーカーに接続しないことには音を出せない代物。ただ青柳家では窓際のラックにどうやらオーディオセットが格納されているようで、「RS-275CU」の下にはアンプらしい機器に電源が入っている様子が見受けられた。その両側にはおそらくスピーカーが置かれているはずだ。
これらのオーディオ機器は、暢子が初めて青柳家を訪れた第77回ではすでに、窓際に置かれていたのが確認できる。どうやら本作の制作陣がオーディオ機器に懸ける情熱だけは、間違いなく本物なのだろう。