【カムカムエヴリバディ】るいの元を訪れた算太が求めていたのは望郷の念か、それとも「死に場所」か

 布団に横たわる姿に、残り時間が少ないことを感じた視聴者も多かったのではないだろうか。

 3月15日放送のNHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」第94話では、姪の大月るい(深津絵里)が暮らす「回転焼 大月」を訪れた振付師の“サンタ黒須”こと橘算太(濱田岳)が、商店街の真ん中でダンスを披露してみせる場面があった。

 算太は、るいの母親である雉真安子(旧姓・橘、上白石萌音)の兄。るいの娘である大月ひなた(川栄李奈)からは“大叔父さん”と呼ばれるようになり、それまで親戚がいないと聞かされていたひなたは算太との関係を知り、大層喜んでいる様子だ。

 だが当のるいはいまいち納得していない表情。自分が小学校に入学する時期に叔父の算太は姿を消し、母親の安子は慌てて算太を探しに行っていた。その理由を算太に尋ねるも、「昔のことは覚えてない」ととぼけられていたのである。

「視聴者は算太が、安子と一緒に再興しようとしていた『御菓子司 たちばな』の開業資金を持ち逃げした経緯を知っています。しかし幼かったるいにそんな大人の事情は分かるはずもありません。ただ、母親の安子が進駐軍将校と一緒にアメリカに渡ったことと算太の失踪に、何かしらの関係があることは薄々気づいていそうな様子。だからこそ算太に対し、急にいなくなった理由を尋ねていたのでしょう」(テレビ誌ライター)

 当の算太はなぜるいの元に戻ってきたのか。そもそも10年前、るいが作るあんこの味に惹かれて「回転焼 大月」を訪れるも、るいが自分の姪だと気づいた時点で姿を消していたのは算太自身だ。

 おそらくは開店資金を持ち逃げした過去に加え、それが原因で安子がアメリカに渡ったことも気に病んでいるはずの算太。だが彼にはこのタイミングでるいの元を訪れる理由があったのではないだろうか。

「サンタクロースに扮して商店街の福引を手伝っていた算太は、ダンサー志望だった若いころの幻想を見ることに。幼かった安子に『ダンスを見せて』とせがまれ、彼はサンタ姿のままダンスを踊り始めます。そこで彼の目に映ったのは平成の京都・あかね通り商店街ではなく、若いころに暮らしていた岡山・朝丘町商店街の幻影。故郷を捨てたはずの彼が70代の老齢となったいま、望郷の念に駆られた様子がありありと伝わってきました」(前出・テレビ誌ライター)

算太は妹の安子からダンスを見せてとせがまれた幻影を見ていた。ドラマ「カムカムエヴリバディ」公式ツイッター(@asadora_bk_nhk)より。

 福引を手伝う日の朝には、るいが「御菓子司 たちばな」で代々引き継がれてきた「美味しゅうなあれ♪」というおまじないを唱えながらあんこを煮ている姿を目撃。家業を嫌って飛び出したはずだったが、そのあんこが算太に若かりし頃を思い出させていたようだ。

「ダンスを踊った算太はその場に倒れてしまい、大月家で布団に横たわることに。るいの夫である錠一郎(オダギリジョー)は算太の財布から、入院していた病院の診察券を見つけます。実は相当に状態が悪く、いつ死んでもおかしくない体調だった算太。病院で人知れず亡くなってしまうよりも、血の繋がったるいの元で最期を迎えることを選んだのではないでしょうか。すでに岡山の生家はなく、妹の安子もアメリカに渡ったきり。そんな算太にとって唯一の『死に場所』が、姪のるいや姪孫のひなたが暮らしている大月家だったのでしょう」(前出・テレビ誌ライター)

算太が最後に見た光景は「御菓子司 たちばな」の幻影だったのか。ドラマ「カムカムエヴリバディ」公式ツイッター(@asadora_bk_nhk)より。

 大正9年(1920年)生まれの算太は、物語の時点でもはや73歳の高齢。るいやひなたに看取られて旅立つことで、良き人生を締めくくれるのかもしれない。