【カムカムエヴリバディ】繁華街、岡山城、神社…アニー=安子は思い出の場所を逃げ回っていた!

 なぜ彼女はそんなにも長距離を走ったのか、本作のファンならその風景に涙したかもしれない。

 4月6日放送のNHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」第110話では、アニー・ヒラカワ(森山良子)が52年ぶりに故郷の岡山に舞い戻る場面が映しだされた。そこで見せた“逃走劇”が、なんとも意味深だったという。

 前回の第109話で大阪のラジオ番組に出演し、それまでシアトル生まれの日系2世と偽っていたところ、実は日本生まれであることを明かしていたアニー。彼女はラジオの独白で娘のるい(深津絵里)に語り掛け、自分が実は雉真安子(演・上白石萌音)であることを告白していた。

 そんなアニーは昭和26年(1951年)に娘のるいを置いて、進駐軍将校のロバートと共にアメリカに渡っていた。彼女はアメリカで大学を卒業し、いつしか名前も変え、ハリウッドのキャスティングディレクターとしてキャリアを築いていたのだった。

 やがて、日米合作のハリウッド映画「サムライベースボール」の仕事で来日したことをきっかけに、協業先の条映太秦映画村に勤める孫のひなた(川栄李奈)と知り合うことに。そのひなたから、るいもシンガーとして出演するジャズコンサートのチケットをプレゼントされていたのである。

「ラジオを聴いていたひなたやるいは、アニーが安子であると知ることに。ひなたは帰国便に乗ろうとするアニーを追いかけて岡山から関空に急行しますが、出発時刻までにアニーを見つけることはできませんでした。失意のまま岡山に戻ると、コンサート会場である岡山偕行社の前にたたずむアニーを発見。『おばあちゃん!』と声を掛けたのです」(テレビ誌ライター)

 その声に、思わずその場を逃げ出してしまうアニー。娘のるいに会いたい気持ちと、娘に合わせる顔がないという気持ちがないまぜになり、自分でもどうしたらいいのかが分からないまま駆け出してしまったのかもしれない。

 逃げるアニー、追うひなた。孫の足ならすぐに追いつけそうなものだが、ここから岡山中を駆け回る逃走劇が始まったのだった。

「コンサート会場の岡山偕行社は、岡山県総合グラウンドの一角にあります。ここからアニーは岡山駅を挟んで反対側にあるアーケード街の表町を爆走。次に進路を北に変え、岡山のランドマークである岡山城へ。最後はかつて亡夫の稔と一緒によく訪れていた朝丘神社へと向かいました。そこでようやく力尽きたのか倒れ込み、絞り出すように『るい』とつぶやいたアニー。彼女は長駆、実に6キロを超えるであろう道をひなたから逃げ回ったのでした」(前出・テレビ誌ライター)

コンサート会場の岡山偕行社(現存)は、るいの夫・錠一郎が幼少時、ジャズの生演奏に触れた場所でもあった。トップ画像ともに©NHK

 それにしても78歳にもなる老婆がなぜ、岡山中を逃げ回ったのか。実は彼女が走った道筋には、ちゃんとした意味があるというのだ。

 コンサート会場の岡山偕行社は夫を失った戦後、同所をオフィスとしていた進駐軍将校のロバートに連れられてクリスマスイベントを観に来たところ。ここで安子はアメリカ人も日本人と同じように戦争で亡くなった人たちを悼んでいることを知ったのであった。

 繁華街の表町は、亡夫の稔(松村北斗)と一緒に訪れていたジャズ喫茶「ディッパーマウス・ブルース」があった場所だ。そして岡山城は岡山の象徴であるとともに、稔の弟で実家の雉真繊維を継いだ勇(目黒祐樹)が野球部の練習でランニングしているところに、安子が偶然出くわした場所でもあった。

 そして最後の神社は、稔と一緒に夏祭りに訪れていた朝丘神社。ここは娘のるいとその夫の錠一郎(オダギリジョー)も1994年の夏に訪れており、るいは顔を見たことのない父・稔の幻影と出会っていたのである。

岡山城の石垣を背景に逃げるアニー。彼女は思い出の中を駆け回っていたのかもしれない。©NHK

「アニーの爆走ぶりに目を奪われがちななか、その経路に感慨を覚える視聴者も少なくなかったようです。アニーにとっては52年ぶりに訪れた岡山。二度と戻るはずのなかった故郷に呼び寄せられた彼女は、無意識に想い出の場所を駆け巡っていたのかもしれません」(前出・テレビ誌ライター)

 そんなアニーが最後に訪れるべき場所は、26歳で飛び出した実家の雉真家なのかもしれない。